介護中に感じた夫への不信感が離婚の原因に・・・ |
「この地獄から抜け出すには、もはや離婚しかない…」
厚生労働省の人口動態統計によれば、平成15年の離婚件数は28万3854件。このうち、同居20年以上のカップルの離婚は、4万5045件。約16%がいわゆる熟年離婚というわけです。性格の不一致や、浮気などとともに、「介護」もまた、大きな原因のひとつといえるのではないでしょうか。
「この介護地獄から抜け出すには、もはや離婚しかないと思いつめていました」と打ち明けるのは、近藤真砂子さん(仮名・62歳)。お姑さんと同居を始めて以来、10年間にわたって在宅介護を続けてきました。
お姑さんはアルツハイマーをわずらっており、ひどい物忘れや徘徊、せん妄といった症状が見られました。日中は二人だけになるため、真砂子さんはほぼひとりでお姑さんの面倒を見ていたといいます。もともと折りあいの悪かった嫁姑の間は、同居後もけっして良好ではありませんでした。
食事を食べたのに食べないと言い張り、近所に「うちの嫁はご飯も食べさせてくれない」と言いふらす・・・
貯金通帳を盗んだと詰め寄られた・・・
ゴミ捨て場からゴミを拾っては、自宅へ持ち込んでしまう・・・
「ガスの火をいじって火事を起こしかけたり、ひとりで出かけては迷子になったりしてしまうので、いつも目が離せませんでした。おかげでほぼ一日、家から出ることができません。以前は習い事やボランティア活動にも精を出していたのに、これじゃ囚人と同じじゃないのって・・・。もともと活動的だっただけに、生きている実感が湧きませんでした」
一方、ご主人の帰宅は毎晩深夜。そのたび「残業してきた」と言い訳しますが、いつもお酒の臭いがしていたそうです。そんなとき「今日ね、お義母さんがね・・・」と言いかけようものなら、「いい加減にしてくれよ、仕事で疲れているんだから」「お袋のことを悪く言うなよ」などと、ぴしゃりと拒絶されてしまいます。週末も好きなゴルフに行ってしまい、真砂子さんだけがお姑さんと家に二人きり。だんだんストレスがたまり、いつのまにかごっそりと髪が抜けるようになってしまったそう。
「この人と別れればこんな状態から解放される、とそればかり考えるようになりましたね。でも、経済的な不安が先立ってどうしても決心できませんでした」。
「私が求めていたのは感謝やねぎらいの言葉なんです」
そんなとき、思わぬ味方が現れました。当時、大学生だった息子さんです。『おやじ、お袋の髪を見てみろよ!』。帰宅した父親をいきなり怒鳴りつけ、二人で大喧嘩になったとか。その晩、ご主人は憮然として寝てしまったそうですが、翌朝、台所に向かう真砂子さんに初めて謝ったといいます。
「『お前ばかりに押し付けて申し訳なかった』と。そして『なにを手伝えばいいか言ってくれればやったのに』っていうんです。でもね、私が求めていたのは感謝やねぎらいの言葉なんです。向こうにも仕事がある以上、作業をいくらか分担してもらったとしても、さほどのことができるわけじゃない。それより、心から『ご苦労様』『いつもありがとう』と言ってくれれば、それで苦労も吹っ飛んだと思う。いたわってくれる気持ちも欲しかったですね。たとえば休みの日くらい、私を自由にさせてくれる心遣いがあってよかったと思うんですよ」
それからまもなく、お姑さんは大腸がんを患い、入院することとなりました。残念ながらそのまま亡くなられ、真砂子さんは長かった介護生活に終止符を打ちました。しかし、介護中に感じた夫への不信感はいまも心の中にくすぶっている、と言います。
介護保険制度がスタートし、介護は社会的な問題として認識されるようになりました。かつてのように、主婦がひとりで責任を抱え込む必要はなくなったのです。とはいえ、男性の介護に対する意識はまだまだ進んでいるとはいえません。真砂子さん夫婦の場合は、幸いまだ離婚に至っていませんが、パートナーに任せきって安心していた結果、いきなり別れを切り出される夫族は少なくないでしょう。
「現在、パートナーが在宅介護中」という男性は、相手の様子をよく観察し、どんなサポートを望んでいるのかを察してあげてください。「移動介助など力仕事を手伝って欲しい」という場合もあれば、真砂子さんのように「ねぎらいの言葉がほしい」「自由な時間を作ってほしい」ということもあるでしょう。いずれにせよ大切なのは、「一方的に介護を押し付けたりしないよ」「放っているわけではないよ」というメッセージではないでしょうか。
「まだまだ介護なんて」という人も、ぜひ、パートナーと老親介護について話し合っておきましょう。どちらか一方が負担をかぶる介護は、家庭全体の不幸につながりかねません。