為末選手はインタビューでこう話した。
「前回は母に贈ったメダル。今回は父に贈りたい」
応援席にはお母さんの文枝さんしかいない。
そう、お父さんの敏行さんは、2年前に亡くなった。
2001年エドモントン世界選手権での銅メダルは、お母さんに贈った。次は当然お父さんだ。しかし、望みを叶える前に、がんで逝ってしまった。
「父に手渡しできればよかった。けど、間に合わないことはない」
もし、為末選手がお父さんにメダルを渡すことを諦めていれば、今回メダルは取れなかっただろう。「もういないから」という言い訳を自分に対して許さなかったことが、為末選手の「強さ」なのだ。「持続すること」へ決意なのだ。
「(10台あるハードルの)9台目でほとんどの力を使い果たしていた。自分のメダルと思っていたら、ここまで走れなかった。父親のおかげかなと思う」。
最後に背中を押してくれたのが、家族はもちろん、天国で朗報を待つ父であったことを、為末選手は知っている。
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さて、為末選手の愛読書は、新渡戸稲造の『武士道』である。
本書で「武士道」は以下の7つの要素で語られる。
- 「義」※正義
- 「勇」
- 「仁」※惻隠。人をいたわる心。
- 「礼」
- 「誠」※正直
- 「名誉」
- 「忠義」
と為末選手は語っていたけど、おそらく武士のごとく「死ぬ気」で走ったのだろう。この「死ぬ気」こそ、今回の勝利の源泉だと思う。会社を辞めたこと。海外を転戦して経験を積み重ねたこと。雨・開始時間・フライングさえもすべてポジティブに理解しようとしたこと。そして、天国にいるお父さんへ、メダルを届けようとしたこと。
「死ぬ気」なら、いつも以上の力が出る。「火事場のクソ力」「窮鼠猫を噛む」「背水の陣」などなど、みなさんも何度か経験していることだろう。その「死ぬ気」で頑張る力は、とても素晴らしい力なのだ。
さて、みなさんの就職活動は「死ぬ気」だろうか。もちろん、就職活動で死ぬことは無い。しかし例えば、この面接に落ちたら死ぬとしたら、どうだろうか。みなさんならどんな準備をするだろうか。
「死ぬ気」でやってみることを、一度試してみよう。
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「次は自分のために、違う色のメダルを獲る。」
為末選手は早くも次の大阪・北京を見ている。今は帰国しているけど、プロだから、生業としての海外で転戦する旅に出る。
為末選手のメダル獲得は、ただの感動ではない。賞賛でもない。もっとリアルで熱い何か── そう、それは、「まだ手が届くはず何かがあるだろ?」「もっとできるだろ?」「まだできることがあるだろ?」 そんなメッセージか込められていたのではないだろうか。
為末選手は、天賦の才だけでメダルを取ったのではない。
そのプロセスにこそ、メダルを取れた理由がある。
君のキャリアも、私もキャリアも、もっと切り開く余地がきっと、あるはずだ。
※上原春男・前佐賀大学長も、「これでいい」と思った瞬間に、人も企業も成長が止まると指摘している。また、明確な目標を持つことで、周囲の雑音が気にならなくなり物事に集中でき、それが継続力につながると指摘している。(出典:『成長するものだけが生き残る』)
※明確な目標は、言葉にできて、周囲に広報することで、初めて価値を持つ。
※余談だが、関西人はよく死ぬ。「死ぬほど暑い」「死ぬほど腹減った」「死ぬほど旨い」「死ぬほど好き」など。私はいったい何度死んだのだろうか。