自分自身を理解できていない
ことに起因する転職の失敗も
今の会社を辞めて新しい会社に就職する、あるいは新しい仕事を始める----。転職の理由は、会社の経営方針や給与などの勤務条件に対する不満からという人が少なくありませんが、それと同じくらいの割合で多いのが、「仕事にやりがいがない」「自分の能力を発揮できない」「適性や専門性を生かせない」など、仕事と自分の能力や適性、志向とのミスマッチです。
どのような理由であれ、新しい会社で新しい仕事に就くことで、それまで不満足だった部分が解消できればいいのですが、現実には、再就職は果たしたものの、転職先で同じような悩みを抱き、再び同じ理由で転職してしまう人が少なくありません。
これは、1つには、仕事や会社に関する情報収集、研究が不足しているためです。会社の経営方針や給与体系などについては、求人情報やインターネットのホームページ、会社案内などから比較的容易に情報を入手できますし、不明な点は面接のときに確認することもできます。しかし、なまじ社会経験があるだけに、自分が持っている知識やイメージが先行し、せっかくの情報を生かせないままに転職先選びをしてしまっているのではないでしょうか。
転職に失敗するもう1つの原因は、自分自身を分析し、見つめ直すことを怠っていることが挙げられます。自分にとって仕事とは何なのか、自分にはどんな能力がどの程度備わっているのか、自分はどんな働き方をしたいと思っているのか、将来的にどうありたいと思うのかなど、自分自身と仕事との関わりについて、はっきりした指針を持つことができれば、自分の能力とかけ離れた仕事を目指したり、志向に合わない仕事に就いたりすることはないはずです。
自分自身を知ることは
キャリア形成に欠かせない
ガイドが転職をテーマとした問題に関わり始めた80年代前半には、転職はいまほど一般的ではありませんでした。転職すると給与が下がってしまうケースが多く、また、退職金額が勤続年数に比例することなども考えると、たとえ自分には向いていない会社、仕事であっても、辞めずにしがみついていた方がいいという考え方が主流だったわけです。
そんな中にあって、自分のやりたい仕事を求めて転職する人を「青い鳥症候群」としてひとくくりに非難する言葉が流行ったりもしました。「最低3年は我慢しろ。そうすれば、仕事の面白みも見えてくるはず」などと、早期の転職を諫める人が大多数だったのです。
しかし、ここ数年の間に状況は大きく変わりました。企業は終身雇用の考え方を捨て去り、そのときどきに必要な社員を必要なだけ雇用するという、効率だけを追求する経営にシフトしつつあります。たとえ自分は今の会社で定年まで全うしたいと思っても、会社をとりまく環境次第ではそれが許されなくなっているのです。
このような状況の下で、私たちは、いつどんなときに会社から見放されたとしても、納得できる仕事を確実に確保できるよう、常日頃から準備しておく必要に迫られています。年齢や社会経験の長さに応じて、社会的に必要とされるキャリアを身に付け、人材としての価値を保ち続けていかなければならないのです。