(2006.07.04)

世界的に進む「米軍再編」。いったい何を行うのか。その目的は何なのか。日本にはどのような影響があるのか。「世界の保安官」アメリカ軍が進める再編(トランスゴーメーション)についての基本情報を解説します。

1ページ目 【なぜアメリカ軍は大規模な再編をするのか?】
2ページ目 【冷戦時代が終わって注目される「不安定の弧」とは?】
3ページ目 【日本での米軍再編、なにがどうなっているのか?】

【なぜアメリカ軍は大規模な再編をするのか?】

物理的なものだけでなはい「米軍再編」

アメリカ軍ヘリ
世界的に展開されている大規模な米軍再編は、単なるリストラではない。高度に戦略的なものだ。(Photo:(c)「沖縄発!役に立たない写真集
単に「軍事費を削減しよう」「もう冷戦はないから過剰な兵力をリストラしよう」というだけで、アメリカは米軍再編をしようとしているわけではありません。

アメリカは、いま軍事や世界情勢の中で起こっているさまざまな変化に対応するため、米軍を再構築、そしてトランスフォーメーションしようとしているのです。

その「変化」とはなにか、具体的にあげてみましょう。

(1)戦争は「産業化社会の戦争」から「情報化社会の戦争」へと変化
(2)戦争は「消耗戦」から「麻痺(まひ)戦」へと変化
(3)対応すべきは「冷戦の壁」から「不安定の弧」へ移動
(4)対称型の戦いから「非対称型の戦い」への対応が求められている

では、それぞれがいったい何を意味し、アメリカはそれに対してどう対応しようとしているのか、見ていきましょう。

「産業化社会の戦争」から「情報化社会の戦争」へ

少なくとも第2次世界大戦までの戦争は、その国の産業の優劣が結果を大きく左右するものでした。

つまり、ナチス政権の下で国家統制産業を構築し、軍事力を増したドイツは、世界恐々の不安から立ち直れないフランスを撃破しました。そして、そのドイツや、日本を圧倒的な工業力による兵器の物量で叩きのめしたのがアメリカでした。

産業大国、工業大国が戦争を制する、これが従来の戦争のパターンでした。

しかし、ベトナム戦争はその観念を覆しました。まったく近代的産業が起こっていないベトナムのゲリラたちが、アメリカに「勝利」したのです。神出鬼没なゲリラの前に、アメリカの近代兵器は無力でした。アメリカが物量にまかせて行った盲目的な北ベトナムへの大爆撃や、枯れ葉剤の大量散布も、結果的にはアメリカを勝利に導くことができませんでした。

そして、情報化社会は戦争にあらたな要素を加えました。国民の戦争への反発です。新聞やテレビで苦戦するアメリカ軍、アメリカ兵士の残虐な行為を見聞きした国民は、ベトナム戦争への嫌悪感を強め、「戦争のもと国民は団結する」という定式を打ち破りました。

さらに情報化社会が進んだ今日において、アメリカ軍は、戦争は兵器・物資の量よりも次のようなことが重要であると考えるようになったのです。

・ハイテクや情報技術(IT)を利用した迅速かつ正確でムダのない攻撃
・国民に不安を抱かせない早期の戦争の決着と犠牲を極小化すること

これを実現するため、1980年代後半から進められてきたのがRMA=軍事における革命だったわけです。RMAについては、また後ほど詳しくみていきます。

戦争は「消耗戦」から「麻痺(まひ)戦」へ

消耗戦と麻痺戦
アメリカ軍は消耗戦作戦を捨て、いきなり敵の心臓部を叩く麻痺戦へと戦争概念を転換することで、湾岸戦争以降勝利を収めてきた
アメリカ軍は同時に、戦争の考えを、これまでの「消耗戦」から「麻痺戦」へと転換しました。

消耗戦は、中心的な戦力と戦力がぶつかり合い、先に消耗し尽くした方が負け、という戦争です。極めて伝統的な戦争観ですが、これでは戦争の長期化を招いてしまう危険性があります。

アメリカは、戦争の概念を消耗戦から麻痺戦へと移しました。大きな戦力がぶつかる前に、さまざまな手段で敵を「麻痺」させ、敵を混乱させ、あるいは戦意を喪失させてから、大きな戦力を投入して勝利を目指す、という考えです。湾岸戦争は、この作戦で成功しました。

さらにイラク戦争では、アメリカは敵を麻痺させるだけで、大きな戦闘がないまま、容易にフセイン政権を倒し、イラクの占領に成功しています。

敵を動けない状態に陥れて、一気に勝利を決める。この麻痺戦にアメリカが対応することによって、アメリカは確実に、そして短期間で勝利を収めることができると考えているわけです。

この麻痺戦の考え方は、むかしからなかったわけではありません。しかし、麻痺戦を徹底的に行うことを可能にしたのが、さきほども少し述べた「RMA=軍事における革命」なのです。

RMA(軍事における革命)とはなにか

RMAの成果
アメリカ軍はRMAの進行によって兵器のIT化・ハイテク化が急速にすすみ、今では複数の目標を1つの爆弾で正確に破壊できるほどになっている。
アメリカが進めているRMAは、兵器、そして軍事システムそのものをハイテク化、IT化していこうとするものです。

兵器のハイテク化・IT化は以前からかなり進んでいます。今では、26個のGPS衛星によって誘導される精密な誘導攻撃兵器が誕生し、まさにピンポイントで敵の心臓部を一撃できるようになっています。

兵器のハイテク化は「地形を利用すれば有利」という概念そのものも打ち砕きました。「デイジーカッター」とよばれる爆弾は爆心地の酸素をすべて吸い上げ、複数のほら穴に潜んでいる敵の兵士も根こそぎ窒息死させてしまいます。

そして数多くの偵察衛星や、すでに実用化から多用化の段階に入っている無人偵察機、そして特殊部隊が送ってくる情報などを総合して、陸・海・空の3つの軍隊が的確に目標を定め迅速な共同作戦をとることが、いま目指されているのです。

こうしたRMAの進展により、アメリカは情報化社会の戦争、そして麻痺戦を戦う能力を向上させているのです。

さて次ページでは、アメリカがシフトしようとしている「不安定の弧」について説明していきます。