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「米軍再編」なにがどう変わる?(3ページ目)

最近にわかにニュースになり始めた「米軍再編」。なぜ再編するのか? どういうふうに再編されるのか? 日本の米軍はどうなる? できるだけわかりやすく解説してみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【なぜアメリカ軍は大規模な再編をするのか?】
2ページ目 【冷戦時代が終わって注目される「不安定の弧」とは?】
3ページ目 【日本での米軍再編、なにがどうなっているのか?】

【日本での米軍再編、なにがどうなっているのか?】

アメリカ軍再編の概要

日本の米軍再編
韓国・ドイツの米軍は大幅に削減されるが、在日米軍の削減は少なく、指令部の移転など、むしろ機能強化の動きが見られる
アメリカは、今回の再編=トランスフォーメーションによって、軍人・文官含めて17万人ほどをアメリカに帰還させ、アメリカが使っている海外の施設も30%削減しようとしています。

そのことにより、コストは今後20年間で154億ドル削減できると考えています。冷戦で膨れ上がった軍事力はRMAの進展によって過剰になってしまいました。これを大きくスリム化しようというのが、アメリカの戦略です。

そのため、ヨーロッパにいる人員は40%削減します。特にドイツにいる陸軍は大幅に削減し、代わりにストライカー部隊を設置します。

韓国にいるアメリカ軍も13000人ほど削減します。韓国への軍事的援助はむしろ強化しますが、アメリカ軍の在韓国指令部はソウルから南下し、いままでアメリカ軍が多くを担ってきた国境防衛機能は基本的に韓国に委ねられることになります。

しかし、日本でのアメリカ軍の削減は小幅です。アメリカからやってくる組織もあります。その大きなものが指令部の日本移転です。アメリカ本土にあった陸軍第1指令部は、在韓指令部と在日指令部を統合する形で再編されて日本のキャンブ座間に置かれることになります。

また、沖縄からは、第3海兵隊指令部が海兵隊8000人とともにグアムに移り、南部の基地は返還されていきますが、問題となっている普天間基地の機能は同じ沖縄・名護市のキャンプ・シュワブに作られる代替施設に移行。沖縄北部の基地や演習場はそのまま残ります。

そして、厚木基地から空母艦載機部隊を岩国基地に移転。横田基地に日米共同使用のミサイル防衛指令拠点を作り、航空自衛隊の基地である築城(福岡県)、新田原(宮崎県)には、アメリカの緊急輸送機の駐機場や兵舎を建築することになっています。

なぜ、日本だけアメリカ軍の機能が強化されていくのでしょうか。

「不安定の弧」対策の重要拠点と考えられている日本

不安定の弧
東部が手薄な「不安定の弧」に対して、この地域をカバーする日本・沖縄のアメリカにとっての重要度は増しているのだろうか
「不安定の弧」の中には、アメリカの基地がいくつかあります。中央アジアにはキルギスに、中東にはカタールに、そしてインド洋に浮かぶイギリス領のディエゴガルシア島もアメリカが借用しています。

特にディエゴガルシア島はアフガン戦争の主要基地として、大きな役割を果たしています。

しかし、これらは不安定の弧のうち西方ばかり。東方で、アメリカ軍が恒久的に基地として使える場所が必要です。それに対して、日本は場所的に非常に効果的、というわけです。

特に沖縄は、東南アジアに近く、また朝鮮半島の有事もカバーできる対応距離にある地理的な要衝。また、東南アジアの気候に近い(ジャングルに近い土壌・地形も多い)沖縄は、「非対称型の戦い」への対応を進めるアメリカ軍の最重要部隊・海兵隊の演習場としても格好の場所と考えられているようです。

アメリカ軍は、外国に軍隊を置くことによって生じる経費の削減を進めてはいますが、戦略的要所を手放すことはしないつもりのようです。ですから、もっとも要所であるといえる日本、とりわけ沖縄の軍事機能を強化こそすれ、全く放棄してしまう考えはないはずです。

日本は「もっとも信頼できる同盟国」

日本がアメリカに信頼されていることも、アメリカ軍が日本に多くの基地を置く理由の1つでしょう。

他国に軍隊を駐留させると、どうしても摩擦が起こります。そして、基地返還へと移っていきます。フィリピンは90年代はじめにアメリカの基地を返還させましたし、韓国でもアメリカ軍に対する反発はそうとう強くあります。

日本では、そういったことがあまりありません。たまに米兵の不祥事などが大きなニュースになりますが、喉元過ぎれば……なのか、深刻な政治的問題に発展することがありません。沖縄以外で、大規模な反米集会やデモが行われることもありません。

そして日本政府は、なるべくアメリカ側の意見を尊重し、実行してきました。アメリカにとって、これほどありがたい、言葉をかえれば「都合のいい」同盟国はありません。

こうしたことから、アメリカは日本をこれからも重要な大平洋地域の安全保障の軸足として利用しようと考えているでしょう。

米軍再編の「負担」をさせられる日本

海兵隊移転負担
沖縄海兵隊のグアム移転費用を、日本はアメリカよりも20億ドル多く拠出する。アメリカにとって「もっとも信頼できる同盟国」といえるのだろう
そして、日本の負担です。

日本は、米軍再編によってもっとも大きく負担を求められている同盟国でもあります。たとえば名護・キャンプシュワブにつくる飛行場建設や、岩国基地機能の拡大などで、地元に大きな負担がのしかかることが懸念されています。

さらに、日本は米軍再編にあたって60.9億ドル(約6820億円)の負担をしなければなりません。これは、沖縄海兵隊のグアム移転負担です。海兵隊の兵舎や家族の学校の建築・整備、日米共同出資の兵士住宅会社への拠出や融資などが主な内容です。

アメリカはお望みのとおり兵力をグアムに移すから、その費用は出してね、というアメリカの主張です。これを、日本は受け入れることになっています。

ちなみに、グアム移転負担費用のアメリカの負担は41.8億ドル。日本よりも20億ドル少なくなっています。

この拠出や、その他さまざまな日本の負担をアメリカに「ありがたい」と思わせることができるか、それとも「日本はちょろいな」と思わせてしまうのか……これからの日本の姿勢が問われるところです。

今回の記事「「米軍再編」なにがどう変わる?」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。

▼こちらもご参照下さい。
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