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「行政代執行」ってなに?(3ページ目)

ホームレスのテント撤去とか、そういうときに必ず目にする「行政代執行」という言葉。そもそも行政代執行とはどのようなもので、どういう手続きで行われるの?問題点は?わかりやすく解説してみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【代執行=行政命令などに従わない人にかわって命令の内容を実行すること】
2ページ目 【行政代執行の具体的手続……どういう手順で行われる?費用の負担者は?】
3ページ目 【行政代執行にはなぜ刑事強制措置のように裁判所による監視がないのか?】

【行政代執行にはなぜ刑事強制措置のように裁判所による監視がないのか?】

代執行と損害賠償請求権

代執行が終わったあと、その是非をめぐって裁判を起こすことができるでしょうか。

行政代執行法にはなんの規定もありませんが、普通、訴訟を起こすときは「訴えの利益」があることが必要であることはいうまでもありません。

しかし、代執行によって撤去などされた土地は、公共のために使われ、それが戻ることはないというのが大きな原則なので、「訴えの利益はない」ということになり、代執行をめぐる訴訟を起こすことはできない、ということになります。

ただし、代執行が違法だった場合、強制徴収された費用や、代執行のときに誤って壊されたりした損害の回復を、憲法に基づく損害賠償請求権を理由に訴訟を起こすことはできます。

日本国憲法 第17条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。


「行政による強制執行」はそもそも妥当なのか?

警視庁
写真は警視庁。逮捕や家宅捜索といった刑事的強制手続には、厳重な手続が必要とされている。
さて、とはいえ、「そもそも行政が強制執行をすること」がそもそも妥当なのか、という考えはあります。

比較的「公共の福祉による制約を受けやすい」のが「経済的自由の権利」といわれており、(二重の基準論)行政代執行はもっぱらこの経済的自由の必要最小限の制約を行っているのが現状です。

さて、それにくらべてきわめて厳重に守られなければならない「人身の自由」については、警察や検察など、刑事行政の行う強制措置─つまり逮捕や家宅捜索─は、厳重な手続きで行われることになっています。

つまり、逮捕、家宅捜索や押収など刑事的な強制措置を行うためには、「人権のとりで」である裁判所が発行した令状の発行を受けることが必要となっているのです。

刑事訴訟法 第199条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。(後略)
(下線部はガイドによる)

「相当な理由」とは、「逮捕の理由と必要」です。これがなくては、原則的に逮捕をすることはできないのです(現行犯などの場合は例外)。このような制約は、家宅捜索や押収についてもほぼ同様のものが課されています。

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代執行も刑事手続のように裁判所が絡む必要がある?

行政機関がみずからの判断で行うことに比べ、司法権を持つ裁判所が逮捕のような強制措置に絡むことのメリットは、

・「国会の代表」的な意味を持つ内閣が任命した裁判官が、行政権の権力乱用を監視・抑制することができること。

・司法権を通じて強制措置を行うことによって、透明性をより高くすることができること。

というものです。

特に2つ目の点については、日本国憲法でも「要求があれば、その(逮捕・拘留の)理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」(第34条)とあり、その透明性が確保されています。

これをうけて、刑事訴訟法では「勾留の理由の開示は、公開の法廷でこれをしなければならない」(第83条1項)と規定されています。

件数の少ない行政代執行、司法権の介入は「手間」?

裁判所
刑事事件でないとはいえ、人権を制約するのだから、司法権の介入は必要ではないかという議論は少なくない。
そのため、経済的自由という比較的制約されやすい人権についても、その強制措置については、司法権を持つ裁判所がそれを監視するシステムが必要なのではないか、という主張もあります。

ともすれば不透明になりがちで、批判を浴びる行政手続きです。そのため、1990年代から行政手続法が制定されるなどしてきましたが、やはり、人権にからむ強制措置には、司法権による監視が必要なのではないか、ということです。

しかし、日本の(警察・検察を除く)行政機関による強制行動について、司法権がそれを監視する、ということについては、多くの日本の政治エリートたちは、どうも乗り気ではないようです。

手間がかかるからでしょうか。

とはいえ、例えば警察による令状逮捕は毎年数え切れないほど行われているわけで、そんなに件数が多くなるとはいえない行政代執行を、同様に司法権の監視下におくことが、それほど「手間になる」とは思えません。

日本社会の根底にはまだ「官はお上」という考え方が潜んでいる?

結局、日本では行政機関を「お役所」「お上」という風潮が強く(「官尊民卑」と表現した学者もいた)、ちょっとした強制措置であれば、行政権の判断で行って当たり前、という考え方が支配的なのでしょうか。

「行政指導」という言葉にそれが現れています。現在は行政手続法により、その指導方法にも一定の手続きが義務付けられましたが、「お上が下々を指導する」という感じが現れるような言葉ではあります。

日本国憲法 第15条第2項
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。


公務員、その大半を占める行政機関の公務員は、国民のための業務を遂行する人たちです。「お上」ではありません。

いまのところ行政代執行という制度くらいしか行政機関による強制行動がないので仕方がないところはありますが、長い目で考えると、行政機関の強制行動への監視システムの構築は、必要なことかもしれません。

★All About関連ページ 敷金トラブルは小額訴訟で解決!

「「行政代執行」ってなに?」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。

▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座

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