２ページ目 【衆院選の「責任」に端を発した自民分裂の異常事態「四十日抗争」】
３ページ目 【反主流派の「造反」で不信任案可決、史上初のＷ選圧勝と大平の死】
【反主流派の「造反」で不信任案可決、史上初のＷ選圧勝と大平の死】
提出した社会党も予想しなかった「不信任案可決」
さて、1980年、この年は参院選の年でもあります。参院選は解散がある衆議院と違い定期的に行われており、いつも通常国会の後に実施されます。社会党など野党はこの自民党などへの逆風のなか、内閣不信任案を出してボルテージを上げ、参院選勝利を目指そうとします。もちろん、少数野党提出の内閣不信任案が可決されることなどは予想していません。
かくして５月、内閣不信任案が社会党によって提出されました。
大平は、福田ら反主流派に不信任案反対投票の確認をしますが、これが裏目に出て、事態は紛糾（数々の事件早期解明を要求する反主流派に対し、大平が「協議した後」と発言したことが紛糾のもとに）。
こうして本会議開会。福田・三木派の大半が欠席。「風見鶏」中曽根康弘の派閥は出席しましたが。いずれにせよ反主流派は、大平は不信任案が通れば衆参ダブル選挙になる解散はできず、総辞職するだろう、と読んでいました。
本会議の開会をずらして不信任案投票を遅らせる、というプランもありましたが、そうなると今度は長老格の灘尾議長の責任問題になって、大平内閣にやはり跳ね返ってくる。
結局、大平の側近田中六助・鈴木善幸の判断により、（当時官房副長官だった加藤紘一を通じて）「本会議開会」。そして反主流派が大量欠席し、賛成多数で不信任案可決。
提出したはずの社会党でさえびっくりした突然の「造反」によって大平内閣不信任案は可決され、衆院解散となったのです。これがハプニング解散といわれるゆえんです。
史上初「衆参ダブル選挙」で、自民は逆転、圧勝へ
マスコミなどは、これで自民党一党支配も終わるか、と考えていました。たしかに、この解散劇はそれを思わせる異常な光景ではありました。しかし、まず中曽根派が急きょ主流派に「転向」。大平は、選挙での勝利を第一に考え、造反議員を「不問」に。たしかに反主流派も、勢いに任せて造反したはいいが、では選挙で当選できるか？ 不安だったのです。
そこに、大平が反主流派の予想を裏切る形で「衆参ダブル選挙」の日程を決定。反主流派は一気に浮き足立ちます。
結局自民党の分裂選挙は回避されました。こうなると、まったく想定外のダブル選挙になってしまい、うろたえる野党に対し、勢力の大きい与党自民党の有利は確実でした。
結局、自民党は圧勝。ここに70年代中ごろから続いていた「保革伯仲」時代は終わりを告げ、自民党は息を吹き返すことになるのです。
自民党きってのインテリ大平正芳、無念の急死
しかし、この勝利を見ぬまま、大平は選挙期間中急死してしまいます。選挙は自民党の「弔い合戦」となり、同情票が集まったのが自民党勝利の一因とも考えられています。……さて、大平正芳の人物像を見て、この回を締めたいと思います。
大平もまた福田同様、70年代の自民党の中では屈指のインテリでした。福田以上、という声もあります。
「あーうー総理」「鈍牛」などと揶揄（やゆ）されましたが、実際は聡明な政治家でした。よく公の発言が「あー、うー」調だったのは、一国の宰相としての発言の重みに対するプレッシャーからだったものです。
彼は語学力に優れていて、また国際政治に精通し、日韓、日中の国交正常化を佐藤、田中ら当時の首相とともに果たしました。エール大学からは名誉博士号が授与されています。
ＩＭＦ（国際通貨基金）総会やアメリカ議会などでも英語でスピーチを行っています。また、その弁舌は国内マスコミでも発揮され、今はなくなった『週刊東洋経済』の名物コーナー「匿名座談会」にもしばしば登場、首相になる直前まで討論に臨んでいました。
タバコも酒も一切やらない生真面目な彼でしたが、いろんな人と付き合う包容力もあわせもっていたといえるでしょう。それが、対照的な人物田中との盟友関係であり、対立した福田とも最後まで会談を行って分裂回避を図り、造反したあとでも、除名などせず許しました。
しかし、時代は派閥抗争の嵐。大平は、首相としては腕を振るう機会なく、この世を去ることになったのでした。盟友を失った闇将軍田中はどうでるのでしょう。
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