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尖閣諸島問題の基礎知識(3ページ目)

中国人活動家が上陸、沖縄県警に逮捕された「尖閣諸島問題」。日中関係に影を落とすこの問題の基礎知識を解説します。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【尖閣諸島の基礎知識】
2ページ目 【先鋭化してきた領有権論争】
3ページ目 【尖閣諸島領有の根拠とは】

【尖閣諸島領有の根拠とは】
尖閣諸島は日本が先にとったものか、中国から奪ったものか


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中国の主張はさまざまで、歴史的なアプローチでいうと古文書に早くから尖閣諸島についての記載がある、中国の皇帝は琉球王国に尖閣諸島の領有までは許していなかった(琉球王国は江戸時代、日本薩摩藩の実効支配と中国王朝の名目支配の二重支配の状況にあったのですね)、とか、いろいろありますが、ここでは国際法的なアプローチ・地理的アプローチを見て行きたいと思います。

さきほどのページででてきたサンフランシスコ平和条約では、第2条(b)で、「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」とあります。台湾・澎湖諸島は日本が日清戦争で勝利して、中国から奪い取った地域なわけですが、尖閣諸島も日清戦争に勝利してはじめて日本が領有を宣言できたわけで、いわば台湾と同じ扱いである、だから尖閣諸島は日本は台湾と同様権利を放棄しているはずだ、という主張があります。

この主張は解釈の問題なのですが、一番先頭に立ってこの条約を作ったアメリカが尖閣諸島問題に対しては「中立」ですからね。沖縄返還のとき、サンフランシスコ平和条約の再定義をしてもらえれば万事よかったのですが、アメリカはこのとき中国との国交回復という課題があって、こういうセンシティヴな問題には及び腰でした。

あと、地理的にいうと、尖閣諸島は南西諸島と違い、中国沿岸からのびる大陸棚(水深200m未満の海域)上にあり、中国大陸と不可分である、とか、沖縄と尖閣諸島の間には常時激しい波があり天然の境界線を作っているとか、そういう主張がなされています。

一方、日本の領有権の主張は国際法的なアプローチで、「先占理論」にもとづいたものです。

先占(せんせん)とは、まだどこの国の領土にもなっていない、「無主地」をまっ先に占有、つまり自国の支配下に置くことで、その地を領土にすることができるというものです。古くはローマ帝国の時代からあった法理論で、近代国際法の父とよばれるグロティウスらもこれを支持、慣習法と化しているものです。

先占においてはその後も国際法的な解釈が進み、単なる発見だけでは先占とはいえないことになっています。発見した無主地の領有をその国の政府が公式に表明しなければ、正式な先占とはいえないとされています。

なるほどもっともな理論ですが、これが18世紀から19世紀にかけて、ラテンアメリカやアフリカなどを列強が領有する正当性の根拠とされたという帝国主義的な批判もあることも、ご承知おきいただいてほしいところです。

さて、中国は確かに尖閣諸島を日本より先に「発見」しているかもしれないし、「命名」もしているかもしれない。しかし、それは先ほどの理論からいうと「先占」の条件を満たしていない。日本は1896年、中国に先駆けてきちんと領有宣言をしている。だから、日本は尖閣諸島の領有権を持つ、と考えることができるわけですね。

もっとも、日本の領有権の主張は、たしかに「帝国主義的」です。日本が中国との戦争に勝って、その圧力で領有したという側面があるのは否めません。

しかし、1960年代末、尖閣諸島に石油があると知るまで、アメリカが尖閣諸島を沖縄の一部とみなしていたにもかかわらず、なんら抗議も行わず、領有の主張もしなかった中国側の動機は、なにか不純なものを感じざるにはいられません。

こんな感じの尖閣諸島問題ですが、中国は平和友好条約締結交渉の際、「次世代の智慧(ちえ)に任せよう」といってきています。「智慧」とはかなり高度な知恵という意味です。尖閣諸島がお互いの国にとって、メリットを産む土地になることを、私は願います。

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