高齢社会が進むにつれ、お年寄りが家の中でケガをしたり、ケースによっては亡くなってしまったりするという話を聞くようになりました。いわゆる「家庭内事故」ということですが、高齢者にとっては安全なはずの「家」が思わぬ事故現場になってしまうこともあるようです。
「今はまだ若いから大丈夫!」と思っていませんか? 後になってバリアフリー住宅にリフォームすると意外にコストも時間もかかってしまうケースがあるのです。
「将来のリフォームにも対応していること」が条件の一つになっていることは、「長く暮らせる家」とは?という記事でご紹介しましたが、後のことを見据えてさまざまなバリアフリー住宅への準備をしておくのも「長く暮らせる家づくり」だと思いませんか?
今回の記事では家庭内事故のデータを見ながら、事故を起こさない快適な住まいづくりについて説明していきましょう。
◆高齢者にとって一番危険なのは普通の部屋
東京消防庁によると、平成13年に救急事故で搬送された人の総数は567,451人。そのうち、家庭内で起こった不慮の事故によって救急車で搬送された人が41,828人です。では、その人たちは家の中で、なぜ、救急車を呼ぶことになったのか、事故の原因別にまとめた(上位のものを抜粋)のが右のグラフです。
ご覧のようにもっとも多い理由は、転倒です。46.6%と約半数を占め、異物誤飲や転落などに比べて断トツに多くなっています。さらに、65歳以上の高齢者に限定してデータを見ると、転倒による事故の割合は69.0%と、非常に高くなっています。
では、家の中のどこで事故に合ったのか、場所別にまとめたのが、左のグラフです。
事故が発生している場所の第1位は居室で、73.0%を占めます。居室とは、建築基準法で人が居住、執務、作業、遊興などをするため、一定時間継続して使用する部屋のことです。住宅ではキッチン、リビング、寝室などを指しますが、浴室やトイレ、廊下などは含まれません。第2位は階段で、7.7%。浴室や階段などよりも、普通の部屋で事故が起こるケースが多いというのは、ちょっと意外ですね。
ここまでのグラフに使用したデータの出典:東京消防庁
◆高齢者は高低差のない、同一平面上で転倒、死亡することも
前述のデータには、亡くなった方もケガをした方も含まれますが、実は、家庭内の転倒が死亡に至るケースが想像以上に多いということが読み取れる調査があるのです。下のグラフをご覧ください。
厚生労働省の人口動態統計では、平成13年に家庭内の不慮の事故で亡くなった人は、11,268人。死亡原因で多いのは、不慮の窒息の31.3%(3,529人)や、何らかの原因で浴槽内で溺死するケースや、浴槽に転落したことによる溺死の29.1%(3,274人)。不慮の窒息とは、誤って食べ物を飲み込んだことによる窒息のことで、例えばおモチをのどに詰まらせたというような場合でしょう。また、浴室は、高齢者と乳幼児には危険な場所で、一度事故が発生すると、死亡につながるケースが多いようです。一人だけの入浴は避けたほうがよいでしょう。
住宅に大きく関係のある死因としては転倒・転落によるもので、20.1%(2,265人)となっています。転倒や転落と聞くと、階段のような高低差のある場所をイメージしがちですが、データをさらに見ていくと、同一平面上で転倒・転落している人が圧倒的に多いのに気がつきます。
転倒・転落で死亡した人のうち、同一平面上での転倒が半数近い1,076人で、階段やステップからの転落や転倒の3.8%(429人)や建物または建造物からの転落の3.5%(400人)を大きく上回っています。
しかも、同じ階層の平面上で転倒・転落している1,076人のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は84.4%(909人)。
ここまでのグラフに使用したデータの出典:厚生労働省の人口動態統計
このような同一平面上での転倒・転落は、0歳では5人、1~4歳では4人となっており、乳児や幼児は意外に少ないのが現状です(5~9歳0人、10~14歳0人、15~29歳6人、30~44歳14人)。その一方で、比較的多いのが45~64歳の138人。しかし、上のグラフでもわかるように、65~79歳は374人、80歳以上は535人とどの年代に比べても多く、高齢になるほど増えています。
それではこのデータからわかる危険性と住宅の関係について次ページでさらにみていきましょうよう。