不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

手付金と申込み証拠金はどう違う?

不動産の売買契約の際には手付金を支払います。また、購入の意思表示をする際に「申込み証拠金」を預けることも多いでしょう。これらがどのように違うのか、法的な意味合いや取り扱いについてしっかりと理解しておくことが大切です。(2017年改訂版、初出:2002年7月)

執筆者:平野 雅之

【ガイドの不動産売買基礎講座 No.14】

不動産の売買契約のとき、通常は買主から売主へ手付金が支払われます。また、新築マンションなどの購入申込みの際は、申込み証拠金として5~10万円程度の金銭が支払われることも少なくありません。今回は手付金と申込み証拠金の違いなどについてみていくことにしましょう。


申込み証拠金とは?

申込み証拠金とは、購入の意思表示をする際に「優先的に購入できる権利を確保する目的」で売主に対して「預ける」ものであり、「冷やかしではなく本気ですよ」といった意味合いで授受されます。

そして、前回の ≪売買契約の成立時期≫ で説明したように、この時点で売買契約は成立していませんから、後で購入の意思表示を撤回することは可能であり、契約をしなければ申込み証拠金は必ず返還されるべき性質のものです。

売買契約の締結に至れば、通常は申込み証拠金がそのまま手付金の一部に充当されることになるでしょう。

一時期、この申込み証拠金の返還をめぐってトラブルが頻発し、大きな問題となったことがありました。現在も申込み証拠金の授受について明確な規制はありませんが、その預り証には「契約不成立の場合は全額返還します」という旨を明記するように監督官庁から指導されています。

なお、申込み証拠金は多くても10万円程度です。あまりに高額な金銭を要求された場合には十分に注意しなければなりません。


手付金の意味とその性質

手付金は契約の成立を前提として買主から売主へ支払われるもので、たとえば中古物件の契約なら、売買金額の10%程度のケースが多いでしょう。

不動産業者が売主の場合にはいろいろと制約があり、新築物件などで未完成の場合には売買金額の5%(かつ1,000万円以下)、完成済み物件や中古物件(工事を伴わないもの)では売買金額の10%(かつ1,000万円以下)までが通常に受け取ることのできる手付金の額です。

手付金の額がこれを超える場合には、法で定められた保全措置を講じなければなりません。ただし、保全措置を講じたとしても、不動産業者が売主の場合に手付金として受け取ることのできる金額は、売買価格の20%が上限となっています。

また、手付金は売買金額の一部(いわゆる内金)ではありません。したがって、厳密にいえば売買代金の支払い(決済)のときには、いったん手付金を買主へ返還し、改めて売買代金の全額を買主から売主へ支払うことになります。

しかし、そのような手続きは煩雑になるため、実際の取引では手付金を売買代金の一部に充当したうえで、残りの売買代金を決済時に支払うことになります。売買契約書に「この手付金は、残代金支払いの際に売買代金の一部に充当します」などと記載してあるのはそのためです。

ちなみに、手付金は「買主から売主へ」支払うものと決まっているわけではなく、逆に「売主から買主へ」支払ったとしても法的効果は何ら変わりません。しかし、取引の慣習として「買主から売主へ」支払うことが一般的でしょう。

また、法的には手付金の性格として「証約手付」「違約手付」「解約手付」に分けられ、それぞれ少しずつ取り扱いが異なります。

「証約手付」は、純粋に契約が成立したことの証しとしてのみ授受されるものです。

「解約手付」はいわゆる「手付放棄・手付倍返し」による契約の解除権を留保する目的があり、通常の取引での手付金はほとんどこの「解約手付」だと判断されます。「違約手付」も取り扱いは似ていますが、「違約があったときに没収する」という意味合いを持っています。

なお、「手付放棄・手付倍返し」による契約の解除はいつでもできるわけではなく、契約の相手方が契約の履行に着手した後はできないものとされています。この ≪契約履行の着手≫ はいろいろと難しい問題を含んでいますので、別ページの説明をご覧ください。


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売買契約の成立時期
契約履行の着手
契約締結後に転勤!手付放棄しないとダメ?

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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