不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

消費者契約法と不動産売買 2

不動産売買に関連する消費者契約法解説の2回目です。今回は、消費者契約法により契約を取り消せる5つのパターンと、取消権の行使期間について説明します。(2014年改訂版、初出:2004年1月)

執筆者:平野 雅之

【ガイドの不動産売買基礎講座 No.85】

前回は消費者契約法について、法の概要や位置づけについて説明しました。引き続き今回は「消費者契約法による契約の取り消し」についてみていくことにしましょう。


契約(契約の意思表示)を取り消せる場合

消費者契約法では、事業者の不適切な勧誘行為により契約(または契約の意思表示)をした場合に、“消費者側から” それを取り消すことができます。そして、その不適切な勧誘行為に該当するものとして次のように規定しています。

□ 誤認・・・不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知
□ 困惑・・・不退去、監禁

「不実告知」とは、事業者が事実と異なることを告げ、それによって誤認した消費者が契約の意思表示をした場合などが該当します。

たとえば、築20年の建物を築10年と告げられたようなケースですが、これについて事業者の悪意は要件とされず、事業者自身も誤認の事実を知らなかったとしても、間違って消費者に告げれば不実告知となります。

「断定的判断の提供」とは、将来の不確定な事柄などについて事業者が断定的な内容を告げて、それによって誤認した消費者が契約の意思表示をした場合などが該当します。

たとえば、将来、確実にその物件の価格が上がるなどと決めつけて消費者に告げ、消費者がそれを正しいことと誤認したようなケースです。これも不実告知と同様に、事業者の故意・過失を問いません。

「不利益事実の不告知」とは、ある重要事項(それに関連する事項を含む)について消費者の利益となる旨を告げ、かつ不利益となる事実を告げなかったことにより、消費者がその事実の存在を知らないままに契約の意思表示をした場合などが該当します。

たとえば、隣地に高層マンションが建つ計画を知りながら事業者がその事実を告げず、通風や日当たりが良好であると説明したようなケースです。これについては、事業者の故意によるものに限られるようです。

「不退去」とは、消費者がその住居などから「退去してくれ」「もう帰ってくれ」という意思表示をしたのにもかかわらず退去しないことで、これによって困惑した消費者が契約の意思表示をした場合などが該当します。

「監禁」とは、事業者の事務所やモデルルームなどから、自分が退去する意思表示をしたのにもかかわらず退去させてもらえないことを指します。不退去とは逆に、消費者が「帰る」と言ったのになかなか帰してもらえなかったようなケースが該当します。

これらの場合、いずれも契約締結までの間において、消費者の契約に向けた意思形成に影響を与える程度の勧誘行為があったことが要件です。

不特定多数を相手とした広告やチラシ、パンフレットなどは、消費者契約法でいうところの勧誘にはあたりませんから、万一、広告だけを見て営業担当者の説明(勧誘)などがないままで契約の意思表示をすれば、たとえそこに誤認があったとしても消費者契約法による取り消しはできないことになります。

また、契約締結までの間における勧誘行為が問題とされるのであって、仮に契約締結後の期間において事業者に不実告知などがあったとしても、その理由だけでは消費者契約法による取り消しはできません。

なお、消費者契約法における「不退去や監禁による困惑」とは、犯罪行為としての監禁や脅迫といったものよりもはるかに広い意味で、たとえ恐怖心をいだくほどの行為はなくても、消費者が困って自由な意思決定のできない状態であればこれに該当します。

ただし、不退去や監禁により消費者が困惑し、それによって契約の意思表示などをしたという因果関係が必要です。そのため、不退去や監禁の事実があったとしても、それが解消した後、別の時期に契約の意思表示などをした場合にはこの規定が適用されません。


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