The second scene |
広島の谷尻誠さんと高田憲一郎さんが組んだ「The second scene」も、けっこう
ファンがいそうな作品です。それはひとつの“街並み”を感じさせるという点では
出色だったのではないかと思います。とくに南面からのアプローチ(残念ながら実際
には通り抜けはできませんが)はすばらしく、登場感があります。
お互いの住戸の庭を一箇所に持ってきただけなのですが、こういうアイデアは
ほかにあまりなく、ちょっと寂しい気もしました。やはり各戸の形状にどうしても
無理が出てしまうのでしょうね。このプランでも、各戸の形はほんとにバラバラです。
ただ、余った土地に合わせて家をつくってみたというのでは駄目で、やはりどこかに
この形状でなければならない必然性のようなものが欲しかった。外観も一戸一戸、
よく練って考えられたデザインなのですが、審査員にはひとつひとつの斬新さがかえっ
て統一感を損なっているという指摘もありました。
町屋モダン--屋根が作る街並み |
大阪の山下喜明さんの「町屋モダン--屋根が作る街並み」は、すごくいいんだけど、
やはり建て売りというコンセプトからちょっと外れてしまったという感じでしょうか。
形としては、京都の「町屋」の再現です。細長い形状に土地を分割し、順番に和室を
つくったり、3人の子ども部屋を横並びにつくったり、個室と個室の間に中庭を2つ
つくったりと、じつにおもしろい工夫が随所に見られ、いろんなタイプのニーズに
応えられる住空間になっています。ほとんどの住戸が中庭を持つあたりも、町屋らし
い空間の特徴をうまく取り込んで、暮らしの楽しさを演出しています。
ハイサイドライトの明るさも、玄関回り(駐車スペース)のバーゴラのお洒落な感じ
も、なかなかいい。だけどやっぱり難点は、コンペのテーマにあった「コミュニティ」
の創出ということでしょう。それぞれの住居はあまりにも独立していて、お互いに
行き来する部分が、空間的にも視覚的にもまるでない。そこが残念なところでした。
というより、町屋を考えた時点でそれは無理だったのかもしれませんね。
■ycf設計室:http://www.oct.zaq.ne.jp/ycf/top.html
Life with Trees |
「Life with Trees」は、私もよく知っている佐藤宏尚さんの作品です。
ほんとに素直に土地を均一に割っただけなのに、他のプランよりもずっと広く見える
のは目の錯覚でしょうか。このプランが際だっていたのは、やはりそのコンセプトに
あります。つまり“木とともにある暮らし”ということ。各戸の敷地内にしっかりと
庭をとって、そこにかなりの木々を持ってきました。そして、それぞれの庭にある木々
がひとつの森を形成して、視覚的に一体化するという仕掛けです。考えてみれば単純
なことなのですが、ほかに「同じものを共有する」というプランはありませんでした。
室内空間の最大の特徴は、1階部分に個室(寝室)を持ってきて、低い位置の窓で
コミュニティスペースからプライバシーを守り、2階全部を広いリビングにしたこと。
とくに2階部分の全面開放のパノラマを使ったプレゼンテーションには、誰もが圧倒
されました。そしてその外には鬱蒼と茂る森が…。2階の大リビングは、家族の成長
とともに可変的に間仕切るという考えも、「こんな大空間を最初から仕切ってしまっ
てはもったいない」と思わせる説得力がありました。
1階が法規的な基準を満たさないぐらい暗いのではないか、外観があまりにもシンプ
ルすぎてつまらないという指摘もありましたが、私などそんなことはあとからいくら
でも修正がきくと思ってしまいました。
■佐藤宏尚建築デザイン事務所:http://www.synapse-net.jp/satoh
結果的に、入賞したのは最後の佐藤さんの「Life with Trees」でした。 かなり順当な結果だと思います。だけどほんとにもったいない。選に漏れた5案の どれが建っても、どこの建売住宅よりも魅力的だったことは間違いありません。 建築家の手が入ると、たちどころに魅力的な空間になるということが多くの人々に 伝わっただけでも、大きな収穫だったと思います。それにしても、こういう企画、 もっと一般的になってもおかしくはないと思うんですけど、ディベロッパーのみなさ んいかがでしょうか?
◆「ウィークエンドホームズ社」
http://www.weekend-homes.com/whc/index.html