建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

3層まるごとワンルームの名作住宅[house K]

完成してからちょうど10年を経た、壁柱とスチールフレームとガラス窓による全面ガラス張りの住宅。3層がワンルームになっている室内は、壁柱によって生まれる小さな部屋を、その時の気分や状況に合わせて居場所として選べるという、これまでの住まいの概念を覆すユニークな住宅です。

執筆者:川畑 博哉

この家の建て主のKさんは環境関係の研究者。ご自身も建築に興味があり、グラフィックデザイナーのお兄さんの「普通の家はありえない」という強い勧めもあって、設計は建築家にと決めていました。
できれば地元の横浜に事務所を構えている若手の建築家にしようと探している時に、当時横浜市の中心地・馬車道に事務所がある独立して7年目の宮晶子さんに出合いました。
「家の中に居ても緑に囲まれた豊かな環境を満喫できる、外と内が一体化したような家」という希望を建築家に託したKさん。完成した家は全面ガラス張りの2階建てで、壁柱によって遮られた小さな空間がいろいろな方向に繋がり、壁の左右で全く異なる風景を楽しめるという画期的な住宅でした。


ガラス張りの中に見える木造の壁柱

外観
竣工時の東側の正面の外観。敷地を巡る大谷石の塀が折れ曲がり、玄関へのアプローチとなっている。photo by Shinkenchiku-sha
外観
庭から見た竣工時の南側の外観。壁柱でつくられた三角形の空間が縦に積み重なっている。photo by Shinkenchiku-sha
1階
壁柱が立ち並ぶことで、緩やかに繋がる空間が造り出されている。3層のうち1階の天井が最も高く、約3.3mにもなる。photo by Shinkenchiku-sha

ある大きな会社の社宅地として開発された郊外型住宅地。ほとんどの敷地が50坪という整然と区割りされたの中にあって、Kさんの家の建つ敷地は4区画分の約200坪の広さがあります。ご両親の家である母屋の隣には以前、祖父の住まいとして建てられたプレハブの家があり、築50年を経てすっかり老朽化していました。そこにKさん一家の住まいを建て替えることを決めたのが今から10年前のことでした。
広い敷地の西側には築50年を経た母屋があり、その隣に竹や雑木林に囲まれるようにして背の高いガラス張りの「house K」が建っています。一見して住宅とは思えない外観ですが、それがKさんの家です。建物を一周するスチールフレームに嵌め込まれた窓ガラス面は全て各階に通気のための開閉するアルミサッシが合計36箇所設置されています。


ピアノが佇む天井高5.7mの大吹抜け

吹抜け ドイツ・ザウター社製のグランドピアノが置かれた1階の吹抜け。 吹抜け 壁柱と天井の仕上げはラジアータ構造用合板。 吹抜け 八角形の吹抜けの天井を見上げる。 台所 吹抜け越しに1階の空間と階段を見る。天井高は3.3m。 階段 3枚の壁柱に囲まれた六角形の階段室。白いスチールの螺旋階段が各階を繋ぐ。
東側の玄関スペースから更に足を進めると、突然八角形の吹抜け空間が現れます。なんと天井高は約5.7m!この非日常的なスケールに驚かされます。ここは奥様のためのピアノ室で、グランドピアノが入る部屋は家を建てるうえでの大きな要望のひとつでした。
構造の要となる壁柱は全部で13枚。幅1.6m、厚さ10cmのラジアータ材の合板パネルです。表面には多数の節がアクセントのように散らばっています。ラフな表面の合板なので、遠慮なく絵を架けたりして自由に使えるようになっています。 また、室内にはドアが無いので、3層がまるごとワンルームなのです。


天井高に3つのバリエーション

玄関
地面のレベルから約1m下がった半地下の玄関スペースとピアノ室。床はラーチ材のフローリング。
書斎
北西の角は約3帖程のKさんの書斎。仕事場としても使われている。
台所
1階の南側の三角形のスペースに造られたコンパクトなキッチン。
食堂
1階の南側に位置する明るく天井の高いダイニング。
居間
西側の母屋の庭の奥まで見通すことができる1階のリビング。
居間
2階のリビングには炬燵が置かれている。左の壁柱の奥がサンルーム。
個室
2階の南側はサンルーム。差し込む日射しで洗濯物が良く乾く。

Kさん宅の天井高は、半地下の地階が約2.4m、1階が約3.3m、2階が約2.1mと、極端な高さの変化を設けています。これによって壁柱の配置との相乗効果で空間のバリエーションが生み出されています。
建物全体は、60°の角度をつけた壁柱によって、正三角形、二等辺三角形、菱形、六角形、八角形の平面をもつ多様な空間が形づくられています。 また西側には正方形と長方形の空間が多く配置されていて、ここは書斎、洗濯室、寝室、子供室、ウォーキングクローゼット等として活用されています。


庭の緑を楽しむ明るいバスルーム

間仕切り
地階のバスルームの入口。光が透過する壁は乳白のテント生地で制作された扉。
階段
据え置きタイプのバスタブが簀子の上に置かれたバスルーム。
洗面室
洗面しながら窓越しに庭の樹々や植栽を間近に楽しめる。

地階の南側にあるバスルームには、テント生地で制作された扉があります。バスルームを使う時には閉じて、ピアノへの湿気対策に加え、プライバシーへの配慮の為に考えられています。
設計者の宮晶子さんの「ひとつの空間の中でひとつの生活のシーンが完結するのではなく、その時の気分や状況に合った場所を選んで過すことができる」という目論み通り、住み始めて10年経ったKさん一家は、3つのフロアを自在に住みこなしておられます。

[house K] 所在地: 神奈川県横浜市 構造・規模: 木造 地下1階 地上2階 竣工年月: 2008年3月 敷地面積: 165.38m2 建築面積: 50.28m2 延床面積: 81.53m2 設計・監理: 宮晶子/STUDIO 2A 構造設計: すわ製作所/名和研二 渡邊英

宮 晶子[STUDIO 2A]プロフィール

日本女子大学住居学科卒業後1997年に独立。
「住むかたが、日常の中で、創造的主体、としてすごせるような住宅をつくりたいと考えています。日々、発見があり、居場所を見つけて、自分自身を発見できるような家のあり方を考えていきたいと思っています。そのために、機能をみたしつつも、機能だけで考えるのでない場のつくりかたを、住む方それぞれの身体感覚や場所を読み取り、いつまでも、いろいろな風景を生み出す住宅の骨格を、提案していきます。」と、語る。
現在、設計活動と共に、母校日本女子大学の准教授として後進の育成にも力を入れている。
     STUDIO 2A Tel.03-5941-8587 http://studio2a.jp
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            宮 晶子 [Miya Akiko]

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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