シェアハウスをご存知ですか?
コミュニケーションが魅力です
物件は一戸建て、あるいは一棟の建物です。入居者はその中のそれぞれの居室で生活します。しかし、リビング、キッチン、トイレ、風呂、洗濯機といった設備や備品は共同で使用します。入居者は、個別に大家さんあるいはシェアハウス運営事業者と賃貸借契約を結びます。
同じ広さのアパート・マンションを借りるより賃料が安いことが多いため、それを理由に入居する人も多いのですが、それだけではありません。
共同生活によるセキュリティ面での安心、あるいは入居者同士のコミュニケーションを魅力と感じて、シェアハウスを選択する人も多いようです。
市場は拡大中のようで、首都圏では5年間で6~7倍に増えていると言われています。女性の入居者が多いのが特徴で、私の手元のデータでは7割近くを占めています。年齢層は、20代から30代前半が中心です。若者をターゲットにできる立地が、比較的有利といえるでしょう。
なお、シェアハウスの名称は一定していません。ゲストハウスなどと呼ばれることもあります。ここでは「シェアハウス」で話を進めたいと思います。
大家さんにとってのシェアハウスのメリット
建物は、寮やマンション・アパート、あるいは比較的大型の一戸建てから転用される場合が多いようです。自宅として建てられ、小家族化などなんらかの事情で賃貸用となった大型の一戸建ては、一般の賃貸住宅としては不利な条件を備えていますが、これを有効に活かす手段としてシェアハウスが注目されたのでした。大型の一戸建て賃貸住宅がもつ不利な条件のひとつは需要の減少です。つまり、世の中全体でも小家族化が進むため、今後は借り手が減っていくと予想されることです。
もうひとつは、供給の増加です。世の中全体の小家族化は、大型一戸建てが賃貸市場に多く出てくることも意味します。高齢者がひとりで大きな一戸建てに暮らすケースなどが増えると、「防犯やメンテナンスが不安。家を誰かに貸そう」と考える方もそうした中から少なからず出てきます。その結果、今後さらに供給が増え、需要を上回る状態が広がっていくと予想されるのです。
ここで、シェアハウスというアイデアが活かされました。大型の一戸建て賃貸住宅をリノベーションし、多人数に貸すシェアハウスとすることで、物件がターゲットとする市場を変えることができます。不利な条件を回避することが期待できるのです。
また、アパート・マンションと同様、一戸建てを一世帯に貸す場合に心配な「退去によって突然、収入がゼロに……」という危険性が、シェアハウスの場合は原則的に無いことも魅力のひとつです。
築年数を経た大型の一戸建ての運用に悩んでいる大家さんにとっては、チャレンジする価値のある活用方法といえるでしょう。
一戸建て賃貸からシェアハウスへ。実例を紹介します
その物件は都内に建つ築40年の一戸建て賃貸住宅。5LDK。賃料12万円。リフォーム代をかけていないため長期にわたって入居者が決まらず、大家さんはお悩みでした。そこで、物件をリノベーションし、シェアハウスにチャレンジすることにしたのです。
シェアハウスの運営を決断するにあたって、大家さんはシェアハウスの管理を得意とする運営事業者に物件を一括賃貸することにしました。期間は10年。賃料はこれまでの募集家賃と同じ月12万円を運営事業者からもらう契約です。
運営事業者は、物件を6室+共用部分からなるシェアハウスにリノベーション。改装工事費用約700万円は全額負担してくれました。彼らはこのシェアハウスの一室賃料を6万5千円に設定。6室×6.5万=毎月39万円の家賃収入を得る計画です。
つまり、大家さんへ払う賃料を差し引きした27万円が運営事業者の手元に残ることになりますが、「初期投資の回収分、日常の管理コストなどを差し引くと、概ね6年の運用で損益分岐点を越える見通しです」(運営事業者)とのことでした。
一緒に寛げるリビングルーム
なお、この建物では、個人で使用量に差の大きいシャワー、ランドリーをコイン式にするアイデアが盛り込まれました。一戸建てをリノベーションしたシェアハウスでは、光熱費や水道代の個人別使用量を把握できないことが多いため、それらは賃料に含まれていることが普通です。
但し、その場合、「いくら使っても負担は変わらないから」と浪費する人が出ると、その人は浪費する分だけ得をしてしまうことになります。運営事業者の収入にも打撃となります。入居者同士の公平感、運営事業者側のコスト対策、両方を考えた上でのアイデアといえるでしょう。
プロに任せるか、世話好き大家さんになるか
食事作りも一緒だと楽しいものです
1.大家さんはプロの運営事業者に物件を一括賃貸。運営のすべてを任せ、運営事業者も運営のすべてを一手に請け負う。
2.大家さんから物件を一括借受けした管理会社が、家賃保証のみ行い、運営をプロの運営事業者に委託する。
3.大家さん自らが管理運営のすべてを行う。
4.3では大家さんは大変なので、共用部分の清掃等、日常管理作業のみを運営事業者に委託する。
シェアハウスでは、「1、2」とするか、「3、4」とするかで、大家さんの立場は大きく違ってきます。
特に3は、大家さんが望んで下宿の世話人のようになり、入居者との接点を豊富に求めたい場合の選択です。入居者の生活にきめ細かく目が行き届きますが、仕事は大変です。実際の例は少ないのが現状です。
1、2では、基本的に、大家さんは入居者と接点をもちません。楽な選択ですが、気をつけなければならないのは運営事業者選びです。ルーズな事業者のルーズな管理運営が、ルーズな入居者を呼び寄せ、シェアハウスの中が無法地帯になってしまうこともあります。そんな様子を見た近隣住人の不安を呼んで、トラブルとなった事例も聞かれます。
プロに任せるなら、安心して任せられる本物のプロに!
シェアハウスは、時折、計画段階から近隣の反対を受けてしまうことがあります。夜中に騒いだり、地域のルールを守らないなどのトラブルを起こすことをご近所の方が心配するのです。また、それ以上に起こりやすいのは、入居者同士のトラブルです。共同生活のルールを守れない人や協調性の乏しい人をうっかり入居させてしまうことがないよう、入居者審査をしっかりやらなければなりません。
ご近所や入居者だけではありません。運営事業者自体にもトラブルのリスクを抱えたところが見られるようです。
小規模な事業者が多いためか、中には経営不安を感じさせる会社もあります。右肩上がりで市場拡大してきたシェアハウスですが、そろそろ物珍しさが消え、淘汰の時期に入る可能性があることに注意をしておきたいところです。
さらに、個性的な会社が多いため、ときに物件の運営に関して大家さんの意向と衝突するといったことも聞かれます。その結果、「シェアハウスをやめて建て替えをしたいのに、一括借上げをした運営事業者が、借地借家法をタテに、借主としての権利ばかり主張して、返してくれない」といった、重いトラブルに発展した事例もあります。
以上のようなリスクを踏まえたうえで、日常の管理運営のことはもちろん、
「物件内における良好な入居者同士のコミュニティの維持のためにどんな努力をするのか」
「困り者の入居者への対処」
「近隣トラブル防止のための方策、対処」
これらについて、運営事業者のビジョンと姿勢をしっかりと見極め、さらに契約内容も十分に理解し、検討することが大切です。
運営事業者との提携をもってシェアハウスに挑戦したいと考える大家さんは、大家さんの立場に立ち、入居者への指導をしっかり行ない、近隣との円満にも気遣ってくれる「本物のプロ運営事業者」をぜひパートナーとして選んでください。