小高い丘に荘厳&威風堂々の石造り
北区西ヶ原にある旧古河庭園は、バラの庭園として有名ですが、ここには鹿鳴館や旧岩崎邸を設計した英国人建築家・コンドル博士の遺作となった旧古河邸があります。規則により内部の写真撮影はできませんでしたが、外観から中の様子をイメージしながら楽しむことにしましょう。
エントランスは、しっかりした英国風の石造り。大正初期に建てられた古河財閥の創始者の自邸ということで、「荘厳」「威風堂々」といった表現がぴったりの造りになっています。
一歩中に入ると、そこはシャンデリアが下がり、マントルピースのある大ホール。これをガラス張りのサンルーム、応接間、バラ園が正面に望める朝食の間、はじの人どうしは会話ができないほど広い大食堂、バスルームなどがぐるりと取り囲むように配置されています。
いかに来客が多かったとはいえ、3人で暮らす家としては広すぎて、どこにいたらよいものか迷ってしまいますね。ちなみに各部屋にマントルピースをつくるのは、家の持ち主の“格”というか、ステータスシンボル的な意味があるそうです。
バラ園を正面に見ながら優雅な朝食
ドラマや映画などで見るような長いダイニングテーブルが中央にでんと置かれた大食堂は、大勢の来客をもてなすにはいいでしょうが、3人きりの夜などはお互いが遠すぎて会話が聞こえないほど。なので、もうひとつ朝食用の部屋を別につくって、家族だけのときはそちらを使ったそうです。朝食用の部屋はこじんまりとして居心地がよく、正面に雛壇状のバラ園も望めて最高です。
おもしろかったのは、大食堂には木の壁の一画に凹が開けられていて、そこから料理が運びこまれていたという話。どんどんつくって、どんどん出す、そんな効率を優先させたこのアイデアは、いかにも企業人の発想といえそうですね。これに対して、意外に狭いのがバスルーム。十分な採光があり快適そうなお風呂ではあるのですが、あえて座って入るタイプの和風の浴槽なので、先の壮麗な大食堂とくらべてなんだかなーという感じがしてしまいます。
室内はすべて純和風という違和感
さて2階に上がると、そこは大ホール。周囲の壁には彫りの入った観音開きの木製ドアが並んでいます。ああ、1階と同じような造りなのかなと思ったら、これが大違い。なんと、2階の居住スペースはすべて和室なのです。玄関上にあたる場所には小さな和室、そこから格式の高い欄間を設えた二間続きの床の間付きの客室、同じく二間続きの主寝室、そして庭に面して縁側があり、子ども専用の部屋が2つ並んでいます。
それにしても、外側は完全な洋館のうえ大ホールも洋風の造りなのに、室内はすべて純和風という違和感。なんともいえません。来客には海外からの要人もいるし、外面としてはモダンな都会人を気どりたい。だけどふだんの生活まで洋風はかなわんわということでしょうか。それにしても、お風呂のあと、いったん赤絨毯の壮麗なホールを通って和室に入るまでの服装がぺらぺらの浴衣だったりして…と考えると、おかしくなってしまいます。
そんな違和感は、住み手の古河さんにもあったのでしょう。この洋館はさして長く使われず、数年で新宿に引っ越されてしまったのだとか。その後、ここは住み手もなく放置され荒れ放題になって、長らく「お化け屋敷」と言われ続けたそうです。なんとももったいない話ですが、古河財閥解体後は、名匠といわれた小川治兵衛の作になる日本庭園、丘の斜面に造られたバラ園とともに国に所有権が移り、現在は東京都が文化財に指定して一般公開されるようになったそうです。
■旧古河庭園
所在地 :東京都北区西ヶ原1-27-39
地下鉄南北線「西ヶ原」下車 徒歩7分
問い合せ:03(3910)0394
開園時間:午前9時~午後5時
休園日は(12月29日~翌年1月1日まで)
※イベント開催期間には時間延長が行われる
入園料 :一般および中学生 150円
※洋館内部の見学は、往復はがきによる事前の申し込みが原則
庭園の面積:30,780m2(芝生1,500m2)
園内の植物:90種類180株のバラ、モミジ、シイ、ヒサカキ、ダイオウショウ、モチノキ、ネズミモチ、ヤブツバキ、ツバキ、イヌビワ、サクラ、ハゼノキ、マツ、ヒマラヤスギ、ツツジ、バラ、イイギリ、ボタン、シャガ、ブラシノキ、ハナショウブ、ヒガンバナ、サザンカ
●「旧古河庭園」を紹介しているサイト↓
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