窓のないコンクリートの蔵

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一見、堅牢な蔵のようにも見える外観
東横線の武蔵小杉駅から歩くこと10分、その家は閑静な住宅地の中に狭い居場所を見つけて建てられています。外から見ると、窓のないコンクリートの壁一面。まるでむかしの蔵を思わせるような一軒ですねー。たしかに周辺の環境を考えると、あまり風景として住宅内に取り込める要素はない。だから閉ざしてしまおうというのはわかりますが、それにしてももうすこし開口部があってもいいのに…と思いながら、中を拝見することにしました。

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地下のように見える1階
左奥がバスルーム
道路面にある駐車場を抜けてエントランスに入ると、やはり薄暗い。階段部の吹き抜けから明かりが漏れてくるものの、閉ざされた印象は否めません。エントランスホールの壁には2つ扉があって、ひとつは収納、もうひとつはバスルームへと繋がっています。納谷さんは、ここをどちらかと言えば「地下」的なスペースとして考えているのでしょうか。白一色でまとめられたエントランスと水回りは、あたたかみのある白熱球の光に照らされて、とても落ち着きある空間を演出しています。

バスルーム内部、使いやすそうなシンプルなデザイン

 

屈折した廊下が空間を広げて見せる

外階段のような仕上げのコンクリートの内階段を使って2階に上がると、そこは階段室を挟んでリビングとキッチン+ダイニングとが二分される構成になっていました。ここにようやく開口部が…。しかしお隣さんの壁が見えるぐらいで、風景を愛でるというよりはやはり通風優先の窓のようです。ここにはあくまでサッシは使わず、手作り感覚の木枠の開口部が設えられていました。

引き戸により壁に同化させてしまうことのできるリビングの開口部

いつもながら無垢の木と白一色の壁、そしてよけいな出っ張りをつくらない壁収納と、狭い空間をいかに広く使いやすくするかという建築家の知恵が生きているスペースですね。それに敷地に合わせて建物がすこ~し屈折しているためか、階段部を挟んで垣間見える向こう側のスペースがさらに奥行きがあるように見える。こうした視覚的なマジックが、ただの既製品にはないところだと思います。
 

3階からこぼれ落ちる光が室内をやわらかく包む

全体的にやや暗い印象があるのはたしかですが、それだけに階段部の吹き抜けからこぼれ落ちる陽光が、室内をやわらかく包み、とても居心地のいい空間を創りだしています。住まわれるのは若いご夫婦とのことですから、ふだんはいない昼間より、夜の暮らしに重きを置かれているのでしょう。
 

ダイニングからリビングを望む、廊下が屈折しているのがわかる

 

白い壁のメンテナンスを考えて手前にガラスのバリアをつくったキッチン

 

「明るい家」というしばりからの発想転換

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光に導かれて上る3階への階段
3階は2階と同様、階段室を挟んで寝室と屋外テラスに別れています。寝室はほとんど閉ざされたスペース。自らの手でドアを開けてテラスに繋げると、大きな開口部を持つ空間になるという仕掛けです。
外から見たとき「なんだ、これ?」と思ったドアは非常用の進入口だそうで、それはなんとウォークインクローゼットの壁に付けられたものでした。つまりこの寝室は、道路面からウォークインクローゼットを挟む格好で存在するわけで、徹底して外と隔絶された空間と言えるんですね。

白い箱の中にいる感覚の寝室、わずかな外光がとても明るく感じられる

 

 
この家に光と風を供給する大切な「装置」としてのテラス

しかし考えてみれば、休息の場である寝室に大きな開口部がある必然性は何もない。都会に暮らす現代人が心おきなく眠り、休息をとる場所としてはこうした空間が最適のようにも思えてきます。
そのいっぽうで、テラスは完全に天空に向かって開かれた空間。ここは、この家に光と風を供給する大切な「装置」として機能しています。これからの都心型の住宅には、明るい家、明るい家と連呼するのではなく、こうした逆の発想にもとづく家づくりが求められているのかも知れません。

設計監理:納谷学+納谷新/納谷建築設計事務所
構造設計:かい構造設計
施 工 :株式会社栄伸建設

構 造 :壁式鉄筋コンクリート造、地上3階建て
建築面積:39.22m2(11.86坪)
延床面積:82.28m2(24.89坪)

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