フィリップ・パーパ―杜氏の真面目さと情熱に、日本人、頭が下がる思い……!

お気に入りの「山廃仕込」を手にするハーパー杜氏はとてもチャーミングだ

天保13年創業、京都丹後の「木下酒造」の現社長は11代目になる。長年勤めた杜氏が癌で亡くなったとき、酒造業をやめようと思ったとか。しかし、先祖はきっと悲しむだろうと悩む日々が続く。そんな時、フィリップ・ハーパーとの出会いがあった。今思えば、神がかり的なタイミングとしか言いようがない。

もともと、奈良、梅乃宿酒造で酒造りを経験していたフィリップだが、最初会った時、木下社長は「大丈夫だろうか」と心配だったとか。そうりゃ、そうだろう。彼はどこからどう見ても生粋のイギリス青年なのだから。

しかし、それ以前の経験となによりフィリップの生真面目さと情熱がわかり、「これはきっと、地元向けの一般酒しか造ったことのないわが蔵にとってゼロからの出発のチャンスになるにちがいない。いわば、“玉川”再生だ」と決意。フィリップとともに歩み始めたのだ。

11代目木下社長。当時の決意はいかばかりだったろうか

玉川再生でロゴも一新した。
あたらしいボトルとパソコンを手に、フィリップ・ハーパー氏は流暢なちょっぴり関西なまりの混じる言葉で語る。

「今年で18回目の造りになります。丹後は、山からの良質の軟水と気温の低い冬、さらにはあまり知られていませんが米どころでもある。まさに米造りの条件が揃った土地です。京都ならではの酒米である「祝(いわい)」や「山田錦」、さらに僕自身が好きな「雄町」を無理を言って使わせてもらっています」

蔵には、自家精米機があり15キロを手洗いしている。雪深い土地柄、4月になっても10度以下のときがある中で、手作業の洗いを行う。
「釜は700キロが炊けますが、いい米と精米、丁寧な洗いが重要です。さばけのいい蒸し米ができます」
イギリス人から「さばけ」なんて言葉が出るとは……。

玉川の目立つロゴ。「寿」・・・に見えないこともないが・・・(笑)。

さらに続ける。
「麹室は50キロしか入りません。現在400石ですが、全量手造り麹でもあるので、半年もかかってしまう(笑)。天井の梁にもひびが入っているし、危険度も高いです。しかし、先代の杜氏はこの蔵で3回も金賞を取ってはるんですよ」と笑う。
とはいえ、建物としての危険も高いので、今年建て替えの予定なのだとか。

「現在、7号、9号、14号酵母を使っています。ただし、生もとや山廃の「自然仕込み」に力を入れています。さらに、炭素濾過はあまり好きではないので使わなくなりましたが、自分の意見ばかりでもイカンと(笑)。今までのお客さんの好みもありますから」
なるほど、地元酒としての位置もしっかりと把握されているようだ。

「造りは、今、進化中」と笑いながら試飲をすすめ、質問に誠実に答えてくれる姿は、昭和63年に英語教師として来日したイギリス人青年だとはどうも思えない。彼が蔵に入った当時は、酒造りの仕事は3Kの代表でもあったのだ。それが、いまや、押しも押されもしない杜氏になっている。日本人として、また日本酒好きとして、頭が下がるような思いだ。

うれしいことに、去年初めて「外国人杜氏」として金賞を受賞したとか。
これからますます、この蔵から目を離してはいけないな・・・と強く思った次第。

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