印中折衷のネパール版蒸し餃子「モモ」
先がキュッと尖ったかわいらしい形に艶やかな皮。噛むと、むっちりモチモチの皮のなかから、カレーをおもわせる肉汁がジュワ~・・・。
「う~ん、やっぱりここのモモは好きだなぁ。」
この間、久しぶりに行ったネパール料理店でふとつぶやいたひと言。
モモは、トマトにスパイスをたっぷり加えたピリ辛のタレで食べる、ちょっと不思議なネパール版蒸し餃子のこと。
中国とインドに挟まれた小さな国ネパールは、多彩な民族が混じりあい、豊かな食文化が育まれた国。自然の恵みと、両国から伝わったスパイスが出合い、バラエティーに富んだ料理の数々が生まれた。モモは、そんなネパールの代表的な料理のひとつだ。
ネパール料理は、基本的にクミン、ターメリックなどのスパイスを多く使うため、味はインド料理とよく似ている。といっても、インド料理ほど辛くなく(油断しているとものすご~く辛いときもあるけれど)、見ためもあまり気にしない、おだやかで素朴な料理が多い。まるでネパール人の気質のように。
インドの国境に近い地域ほどカレー、ナン、サモサ(ポテトなどを詰めた三角形の揚げ物)など、インド料理に近い味の料理を食べ、北のチベットに近づくごとに中国の影響を色濃く受け、料理の様が面白いほど変わってくる。
その証拠に、北部山岳地帯のシェルパ族の代表的な料理は、焼そばやうどんなど。隠し味にはちょっぴりしょうゆも使う。モモもチベット(中国)の影響を受けた、このシェルパ族の料理だと言われている。
ネパール人の感覚を大切にする「マナカマナ」
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大山駅南口を出て徒歩2分。駅右手に見える線路を渡り、左手にある「寿司元」を左。少し歩くと左手の2Fに。さて、私が久しぶりに行ってモモの美味しさを再確認したのは、板橋にある小さなネパール料理店「マナカマナ」。
日本のネパール料理店では、実は冷凍したモモを出しているところが多いのだが(といっても、中国料理店が使っているような業務用の商品はないため、店ごとに大量に作って冷凍している自家製もの)、本当はどの店も作り立てを出したい気持ちは山々。しかし、日本でネパール料理はまだあまり知られていない料理。客足が不安定なので、毎日作っても無駄になってしまうことが多いうえ、作るのに手間がかかるため、冷凍せざるを得ないというわけだ。
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モモは客の様子を見ながらひとつひとつ作られる。隠し味はライさんの愛情。そんな状況の中、「マナカマナ」では注文をうけてから自家製の皮で餡をひとつひとつ包み、蒸し上げて提供している。
「モモを毎日作るのはいろんな意味で大変だけど、やっぱり食べて美味しいのが一番でしょ。僕は本当に自分の国の料理が好き。だから、自分が美味しいとおもうネパールの料理を日本人に食べてもらえるなんて嬉しいね。」
と、ライ族の料理人ライさん。
日本で店を出すと、とかく薄れがちなネパール人の食に対する貪欲さを今も常に大切し、料理を作り続けている。
彼の作る料理はどれも愛情に満ち、まるで息を吹き込まれたかのように生き生きとしている。きっと祖国への愛情が料理に伝わっているからなのだろう。スパイスが体の悪いところにじんわりとしみわたり、体がふっと軽くなった気さえしてくる。「スパイスは特効薬」、納得する瞬間だ。・・・次のページへ続く