昨年5月にカナダのカルガリーで子供2人をアパートに置き去りにして餓死させた事件の藤井理絵被告に対し、2002年9月9日、カルガリーの裁判所で懲役8年の判決が言い渡されました。
藤井被告の当時の精神状態を示す専門家の証言に、今回はスポットをあててみます。
■被告は人格障害を起こしていた
ピ-ター・マーティン裁判長は、藤井被告の当時の精神状態を説明するために、心理学者と精神病医学者という2人の専門家の鑑定結果を示しました。被告は当時、人格障害を起こしており、それがこのような結果をもたらしたということでした。
鑑定報告によると、当時、藤井被告は愛情と優しさに飢えていて、子供たちへの関心よりもそちらのほうで心がいっぱいになっていたこと、同時に、自分がいなくなっても子供たちは何とかやっていけると自分自身に思い込ませていたということです。
また、人格障害がある一方で、藤井被告は少なくとも2001年1月頃から鬱状態にあったことも指摘されています。
一方、藤井被告に対し10~14年の求刑をした検察側は、被告は女性のための緊急シェルター(保護施設)に駆け込んだり、子供たちをベビーシッターや児童施設に預けたりした時期もあったのに、最終的にはそういった制度や施設を無視したことを論じました。
そしてそれは、子供たちのことよりも自分の欲求を満足させることを選んだ、自己中心的な、かつ正常な状態での判断によるものだと反論しています。
■鬱を引き起こした要因
マーティン裁判長は、藤井被告の鬱状態はいくつかの要因から引き起こされていることを話しました。
一つには、子供たちの父親であるピーター・ブラウンから精神的・肉体的な虐待を受けていたことが挙げられます。それは子供たちが生まれる前から、そして生まれた後も続いていたといいます。
さらに、藤井被告の深刻な孤独感、子供たちの世話をする能力が当時なかったこと、カナダに違法滞在しており公共施設に助けを求め続けることでそれが露見するのを恐れていたこと、家具がほとんどなく家賃も滞納していたというわびしい暮らしぶりなどに触れました。
そして、藤井被告は助けを求められなかったばかりか、結婚せずに子供を産んだという事実を日本の両親に話すことさえできなかったことも指摘しました。
アルバータ大学の現代日本社会学を専門とする教授によって、日本では未婚の母は"まったく社会規範に反する行為としてみなされ、家族全体に恥辱と汚名をもたらす"ことが説明されました。