多くのそば職人が腰痛に悩んでいる
BobとJean、Anderson夫妻が著した「ストレッチング」20th Anniversary Revised Edition (ISBN4-931411-30-4)は、クォリティ・オブ・ライフを営む上で役立つストレッチングのハウツーがビジュアルに示されている。
この本の巻末に「腰部のケア」という項目があって、「腰部のケアと姿勢についての提案」という図面では、脚を鉛直に伸展させたまま床に置かれた荷物を取りあげることを、やめるように示唆している。その荷物が重くても軽くても、腰にかかる負担は相当なものになる。
実はこの姿勢は、伝統的なそば打ちの水回しの基本姿勢である。そば打ちの作業中、この姿勢をとり続けるということは、上半身の自重をすべて腰への負担として受け続けることになる。
誰もが、すくなくともその体重の半分を腰にあたえ続けることになるわけだから、たまらない。そば職人の多くが、多かれ少なかれ腰に悩みを抱えているのは、実はこの姿勢に原因がある。
腰痛の回避は、垂直姿勢の維持
そもそも、腰は斜め上方にある荷重を支えられるようには出来ていない。腰の上にまっすぐ背骨が伸びていき、その上に頭部が載っているという姿こそが人間の基本的な姿勢である。そば打ちのように長い時間かかる作業においては、この基本姿勢を逸脱しないようにして、しっかりと直立を維持しないと、その負担はすべて腰部に集中してしまう。
じゃあ、どうしたらいいのか!
ノシ板は、手前の40%しか使わない
基本的な考え方は全くもって単純である。腰に負担がかからない姿勢で作業をすればいい。コンニャク問答になってしまうが、いまのそば打ちセオリーが腰に負担をかけ続けているのは、江戸時代に完成した手打ち蕎麦の製麺技術が、体位の向上や道具の変化が起こっているにもかかわらず、無批判に旧態を受け容れているからという点を指摘せざるを得ない。
腰を傷めてまで、昔のやり方に拘泥すべきではない。これからは、新らしいそば打ちのスタイルが確立されてしかるべきだし、より作業を快適にしていうために、道具全般の進化が加速していくべきだと考えている。
腰を守る、つまり身体防衛的なそば打ちは、ノシ板を手前40%程度までしか使わないようにする。そのために、基本的なノシを手前側ですべて行えるように手順を改良しなければならない。のし棒は、前方のみならず、後方にも自在に有効なノシができるようにしたい。ノシ板の上で上半身が這いつくばるかのような無理な姿勢を回避するため、巻き棒を利用する考え方とタイミングを変える。
以上を意識することによって、腰への負担は劇的に緩和する。私が講師を勤める築地いのそば教室では、早くからこの新フォームを採り入れており、開業者、アマチュアを問わず腰痛と無縁のそば打ちを身に付けていただき、好評を得ている。
腰は、一度傷めてしまうと、なかなか完治するのが難しい部位である。そばを打つ人ならば、ぜひとも熟考していただきたい、重大なテーマなのだ。