■蕎麦の加水にはいろいろな方式がある

百人いれば百の蕎麦がある。蕎麦に関する限り「~でなければならない」という常識は少しゆるめて考えたほうがいいだろう。人により、地域により、提供方法により、様々な蕎麦の作り方があって、そのどれもが「正解」だ。

しかし、やり方が異なれば、自ずと好き嫌いが芽生えてくるのは当然である。
そこで、そばの加水方法を私なりに整理してみたので、ご参考にしていただきたい。

■水捏ね、湯捏ね

蕎麦に関しては、一般に割粉が少なくなると麺が繋げにくくなり、お湯よりも水のほうが繋げにくい。湯捏ねは粉の品質に対しておおらかであり、水捏ねは粉を厳しく選り好みする。

私見だが、水捏ねで割粉の少ない(あるいは生粉打ち)の発展は、製粉の精度の向上がもたらした、すぐれて都市的な蕎麦打ちではないかと考えている。

私がはじめて生粉打ちに成功したのは、信州の倉科製粉の「スーパーあずみ野」というマークであり、それまで様々な粉を外二(そば粉10に対して、割粉を2加えることから外二と呼ばれる、ちなみに二八はそば粉8に対して割粉2である)で打って、生粉(そば粉100%)では決して成功しなかったのに、この粉を使ってみたら、いとも簡単に生粉打ちができた。

どんな粉が生粉打ちに向いているかというと、高度な製粉技術で内層粉を適切に排除し、繋がりやすく調製した国産粉だ。素材原価が高く、しかも歩留まりが悪いので、水捏ねで生粉打ちができるそば粉はどうしても高いものについてしまう。「スーパーあずみ野」の他は、古川製粉の「特上」もお薦めである。

一方、田舎そばは湯捏ねで生粉打ちをするところが多い。その昔蕎麦の産地では小麦粉のほうが値段が高く、経済的な理由で生粉打ちを余儀なくされた。そして、自家製粉の粉は、内層粉や外被が多く入り込み繋がりにくい。だから、熱湯で蕎麦の澱粉質を糊化させ、強引に繋ぐ手法が編み出されたのだと想像している。

湯捏ねと水捏ね、その特徴であるが、湯捏ねの場合は繋がりやすくなる反面、香りが飛びやすくなる。製麺段階で加熱されているため、茹で時間も短めに調整する必要がある。
水捏ねは、水回しの段階を完璧にしなければならず、技術的難易度が高い。しかし、シンプルこの上ない技法であり、生粉打ちが成功したときの達成感は何ものにも代え難いものがある。

蕎麦の出来に優劣はないが、水捏ねと湯捏ねは出自を全く異にする技法なのだ。

 ■卵水捏ね、変わり蕎麦

加水技法は、さらにいくつかのバリエーションがある。とろろやオヤマボクチなどの植物性のツナギを加えるものと、卵水(らんすい)を用いるものである。

上野藪そばの鵜飼良平師の蕎麦は卵水を用いる。割合は不明だが、天ぷらのコロモを溶く程度の濃度だろうか。フーディアムコミュニケーション刊の『手打ちそば・手打ちうどんのすすめ』の中で、「卵はそばにつやを加え、つなぎの効果もある」と、効用を説いておられる。
ただし、卵水は麺の食感を固めにすることと、当然麺の持ちが悪くなるので、この点については気をつけたい。

また、内層粉を用いて茶そばや柚切りとする変わり蕎麦は湯捏ねが基本である。これは田舎蕎麦以上に繋がりにくい粉をあえて用いるわけで、湯捏ねといっても細く・長い麺にするのは至難である。蕎麦(並粉)の香りや味わいは皆無だが、打ち込まれた季節の食材と、打ち手の技倆を賞でる蕎麦として、こちらも興趣に尽きない。

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