ムーンライト・セレナーデと、まっとうなコーヒー
月光茶房はャズとECMレーベルが響くスタイリッシュな地下空間。長いカウンターの上にスポットライトが光の輪を落とし、背後の壁には店主が窯元を訪ねて一点ずつ選んだ有田焼のうつわが美しく顔を揃えています。今回の記事では、おかげさまでご好評をいただいている新刊『カフェとうつわの旅~あたらしい和のかたち~』(青山出版社)で取り上げさせていただいた東京・青山の月光茶房をご紹介します。本のページではもう1軒、洗練されたジャズ喫茶として名古屋の「JAZZ茶房 青猫」も取り上げています。そちらは本でお楽しみいただけましたら幸いです。
ジャズ喫茶という存在
「和」というテーマとジャズ喫茶のつながりを不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。でも、ジャズ喫茶は1960年代から70年代にかけて日本でのみ隆盛をきわめた特殊な存在なのです。当時の日本でジャズを日常的に享受するには輸入盤のレコードに頼るしかなく、高価な音響装置と多数のレコードを揃えたジャズ喫茶は、心ゆくまで音楽に魂を震わせることのできる唯一の場所だったのです。もっとも、月光茶房の店主は「メディアではジャズ喫茶として紹介される機会が多いけれど、基本は喫茶店です」とおっしゃっています。クオリティを重視して選んだコーヒー豆は珈琲工房ホリグチのもの。紅茶の茶葉はティージュから。良いコーヒーと紅茶をきちんと提供する、その矜恃が「喫茶店です」という言葉に表れているのでしょう。