辻さんの努力は、出会った沖縄の人々のあたたかさに助けられ、路地に根をおろした。私がラズベリー味のカプチーノを飲みながら辻さんと立ち話を楽しんでいるあいだにも、常連のおじさんが立ち寄ってアイスカフェオレをふたつと言う。
さしだされたカップをひとつだけ手にして去っていくおじさんの後ろ姿を見ながら、辻さんが説明してくれた。
「いつもふたつ注文して、ひとつは私にくれるんです」
なんて粋なことを! おじさんだけではない。屋台をかこむ建物の住人たちが、まるで親戚の娘さんを可愛がるようにして辻さんの毎日を支えているのだ。与えたり奪ったりの関係ではなく、ともに生きようという心のもちかたが、宝物のように思える。
ある夕方、常連のお客さまが三人して屋台脇の椅子に腰かけ、それぞれ一五一会とニ胡と三線を弾きながら唄をうたっていたことがあるという。すばらしい夕風が吹きぬけるなかで、辻さんはただひたすらに耳を傾けていたそうだ。