島風に呼ばれて沖縄に移り住んだひとに出会った。リヤカーで路地裏にコーヒーの屋台を出している辻佐知子さんだ。
観光客が集まる那覇のメインストリート、国際通り。辻さんはその細い横道に、吹けば飛ぶような(じっさいに台風で飛ばされたそう)手作りの屋台をちんまりとひろげている。大雨の日は休業。晴れた日は「冷たいカプチーノをテイクアウトして、すぐそばの緑が丘公園でのんびりお昼寝をどうぞ」とお客さまにゴザを貸しだしている。
千葉に生まれた辻さんは、東京の広告代理店に勤めたあと、八ヶ岳で農業に挑戦していた。その彼女がすっかり沖縄に魅了されてしまったのは、風のせいだった。
「どんなに暑い日でも、夕方になるとなんとも言えず心地よい風が吹いてくるのです」
風の吹く島で暮らしたい。そんな願いが心に芽ばえてから三年。身ひとつでもリヤカーなら仕事を始められるとひらめき、「それまではなにをしても中途半端だった私が、生まれてはじめて、どうしてもこれを実現したいと気持ちを集中して積極的に動きまわりました」