オーナーの仲村晃さんの風貌は、Jack、Davidといった名前の響きのほうがよほど似つかわしかった。アメリカ人の男性と日本人の女性のあいだに生まれた仲村さんは、父親の顔を知らない。ふたりは仲村さんが幼い頃に別れ、母は愛した人が写っている写真をすべて捨ててしまったのだ。男性はアメリカへ帰国し、消息がとだえた。
仲村さんは東京で四年のあいだバーテンダー兼「売れない」モデルとして働いたあと、父を探してニューヨークへ渡った。消息はとうとう確認することができなかった。 日本に戻ってきてバードランドカフェを始めた仲村さんの気持ちの中には、お店を開いていればいつかは父が立ち寄ることがあるかもしれないという、小鳥の綿羽一本ぶんほどの期待も混じっていたらしい。