『すみれの珈琲、れんげのゼリー』
馬頭(ばとう)珈琲店がお店を構える細い路地は、鯛焼きのおなかからまちがえて少しはみだしてしまったあんこのように、高層ビルが密集する街の裏手にこっそりとくっついている。 喫茶店にはおよそ似つかわしくないこの名前は、不思議なことに店主の苗字ではなく、また、馬頭観音とも、オリオン座の馬頭星雲とも、モンゴルの馬頭琴とも関係がない。店名のいわれは、多くはない常連客たちが好んで話題に取りあげては、あてずっぽうの憶測を並べて楽しむ七不思議のひとつだった。 わたしが聞いたかぎりでは、馬頭珈琲店の七不思議は次のように数えられている。 一、店名の意味も由来もわからないこと。 二、馬頭の佇む一区画だけが、都市開発の波からとり残されていること。 三、そのような路地裏で三十年ものあいだ、ほそぼそとでも喫茶店を続けてこられたこと。 四、お店で供される果実ゼリーに、かならずパセリが添えられていること。 五、馬頭の庭先で、人間になつかない黒猫が飼われているらしいこと。 六、店主の骨が鳴るらしいこと。肋骨か胸骨か、もしくは鎖骨が。 七、不明。 一から四まではわたしも実際に目にしているのだけれど、五と六については馬頭に何十年も通い続けているネモトさんに聞いたにすぎず、七にいたってはいかなる謎なのかさえ知らなかった。わたしは馬頭を訪れるようになってまだ二年目の新人なのだ。 |
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