偉関晴光(手前)に勝って優勝を決めた瞬間、両手を掲げた吉田海偉 |
「優勝はあたりまえ」の真意
昨年3月に日本に帰化した吉田海偉(日産自動車)が初出場にして全日本のタイトルを手にした。優勝を飾った直後、試合コートで行なわれたNHKのインタビューにこう答えるのを聞いて、不快に思われた人もいるかもしれない。「優勝はあたりまえのこと」
いささか誤解を招きそうな表現ではある。しかし、まだ発展の余地のある彼の日本語会話では、心情を十分には言い表せなかったのかもしれない。
吉田が言いたかったのは、おそらくこういうことだろう。
世界選手権の代表になりたい、全日本で優勝すれば代表になれる、だから優勝するしかない、自分の中ではそれはクリアしてあたりまえの目標だったのだ──と。
むろん優勝しなくとも、世界選手権のシングルス代表(5名)に選ばれる可能性はある。しかし彼は、帰化した選手の常として、誰もが認める形で代表に選ばれたかったのではあるまいか。
前評判は高かった。1997年に来日し、青森山田高校時代にインターハイで史上初のシングルス3連覇を達成するなど、早くからその実力を証明した(帰化に際しては、高校の恩師である吉田安夫監督の苗字を日本名とした)。178センチの長身を生かした破壊力十分のフォアハンドドライブと、台の全面をカバーする驚異的なフットワークを武器に、現在「国内に敵なし」の強さを誇っている。
近年に珍しい荒削りなチャンピオン
それにしても、近年の全日本においてこれだけ荒削りのチャンピオンは珍しい。ベスト8決定戦で松下浩二(ミキハウス)のカットや、決勝の偉関晴光(健勝苑)の老練な小技など、台上にゆっくりと入ってくるボールには抜群に強い。台上ドライブで一気に粉砕してしまう。つまり、自分から先に仕掛けられる展開では、手のつけられない強さを見せる。
一方、準決勝の岸川聖也(仙台育英学園高)に苦しんだように、両ハンドで仕掛けてくるシェークハンド攻撃型の選手には難がある。国際水準からみれば、吉田の卓球の弱点を指摘するのはそう難しいことではない。
日産自動車の佐藤正喜監督は、その弱点を認めたうえで、こう語る。
「たとえば、ブロックができないのはその練習が足りないからだ、というのが彼の卓球に対する考え方なんです。練習すればできるようになる、と。とにかく自分が納得するまで練習するんです。そういうところは昔の斎藤清に似ている」