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第47回世界卓球選手権パリ大会見聞録 パリからの手紙 第6便(5ページ目)

「ベルシーに集結した中国人の目には、まぎれもなく『王楠の日』と映ったはずです」──世界卓球選手権パリ大会を見た「僕」が、手紙スタイルで綴る連載「パリからの手紙」の6回目です。

執筆者:壁谷 卓

中国の5種目制覇を阻む選手は現れるのか、というテーマを掲げておきながら、ずいぶん遠い話を書いてしまいましたね。男子シングルス準々決勝の王励勤とシュラガー、馬琳と朱世赫の一戦にも少しだけ触れておきます。

前回チャンピオンの王励勤に、世界ランキング6位のオーストリアのシュラガーが挑んだ一戦は、この日の屈指の好試合でした。1セット目をあっさり奪われたシュラガーは、2セット目は短く低いループドライブでチャンスをつくり、バックハンドの直線的な強打で決めるという戦術に変え、1-1のタイに戻しました。すると、3セット目は王励勤が、シュラガーのループドライブをカウンターで狙い打つ作戦に切り換えました。ドライブをかけさせるのは勇気のいる戦術ですが、王励勤は弱気にならずに振り抜くんだという意志を貫き通し、再び2-1とリード。

それが4セット目にも生きました。積極的に回り込み、たたみかけるような連打を仕掛けます。シュラガーもフォアサイドへのカウンタードライブで応戦するのですが、王励勤はそこを抜かれたら仕方ないと割り切り、躊躇なく回り込むので、攻撃に段違いの迫力があるのです。7-1のリードからジュースに持ち込まれたものの、一貫して攻めの姿勢を崩さなかった王励勤がこのセットも制しました。これで3-1。このセットに勝負をかけタイムアウトをとった、ベンチの蔡総監督も満足そうな表情です。勝負は決まった──と思いました。

5セット目、シュラガーはほかに手がなかったのでしょう。「つなぎ」という観念を捨て去ったようなプレーで奪い返すと、6セット目は一転、相手の読みの逆をつく作戦に切り換えました。王励勤クラスの中国選手に同じ作戦を2セット続けることは、即、敗戦を意味するからでしょう。サービス、レシーブの巧みさで上回るシュラガー、ラリーの力強さで上回る王励勤。中盤、好プレーを連発した王励勤が10-6とマッチポイントを奪いました。しかし、シュラガーは1本1本、じわじわとにじり寄りました。ジュースに持ち込み、12-11からのラリーがネットにかかりました。王励勤はタイミングが合わず、フルセットに。

パリの観客はウェーブを始め、その波が場内をぐるりと3周しました。興奮の余韻が冷めやらぬまま始まった最終セットは、シュラガーが1点あげるごとに会場から大声援があがります。中盤でシュラガーが連続ポイントをすると、声援と拍手の「切れ目」がなくなり、それに乗じてシュラガーの動きも生き生きとするように思えます。もはや流れを止められるものはなく、舞台はシュラガーを主人公として展開し、そのままエンディングを迎えたのです。

馬琳と、韓国のカットマン朱世赫との一戦もフルセットでの決着となりました。朱世赫は世界ランキングこそ61位ですが、長身で守備範囲が広く、フォアハンドはドライブを主体とするニューモデルのカット型です。ちなみにクレアンガに負けたとはいえ、同じようなカット型の陳衛星もベスト8に食い込みました。近年、カット型が2人もベスト8に食い込むのは珍しいことです。今後の卓球のスタイルに新たな流れが出てくるような気がします。

ペンホルダーの馬琳はループドライブを主体に小技をからめて崩しにかかりますが、カットを一発でぶち抜くようなボールがないため、ランキングほどには差がつかず、どのセットもつかず離れずの競り合いとなりました。それより僕が気になったのは、馬琳の落ち着きのなさです。1点奪われるごとに、うつろな目でうろうろと歩き回ったり、中国チームのほうに視線をやったり、汗なのか癖なのか、台をしきりに触ったりします。一言でいえば、風格が感じられないのです。王励勤や孔令輝との違いがそこにあります。僕は馬琳に小さな苛立ちのようなものを感じていることに気づき、驚いていました。

その「思い」が通じたわけでもないのでしょうが、結局、朱世赫が堅牢なバックカットと、攻撃型を上回るようなフォアドライブを織り交ぜ、最後まで馬琳にプレッシャーを与え、シュラガーに続いて中国の優勝候補を沈めました。これで男子シングルスのベスト4に残った中国選手は、孔令輝ただ1人となったのです。

<連載記事>「パリからの手紙 第7便」
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