卓球/卓球関連情報

第47回世界卓球選手権パリ大会見聞録 パリからの手紙 第6便(2ページ目)

「ベルシーに集結した中国人の目には、まぎれもなく『王楠の日』と映ったはずです」──世界卓球選手権パリ大会を見た「僕」が、手紙スタイルで綴る連載「パリからの手紙」の6回目です。

執筆者:壁谷 卓

1999年、2001年の世界選手権、さらにシドニー・オリンピックという二大大会の女子シングルスを制覇した王楠は、その名の通り、卓球界の女王として君臨しています。そして今大会には3連覇がかかっており、達成されれば、個人戦の開催が2年に1度となった1957年以降、女子では初めての快挙となるのです。僕には、その達成は極めて困難に思えました。

ここ1年ほどの王楠は精彩を欠いています。昨年秋の釜山アジア競技大会では、団体決勝で北朝鮮に2点を落とし、女子団体で91年以来の敗北を喫する「戦犯」となりました。99年1月から守ってきた世界ランキング1位の座は、ついに今年1月、張怡寧に明け渡すこととなりました。後半勝負型の王楠にとって11点制への変更は不利に働いたでしょうし、新サービスルールにも対応しきれていないのかもしれません。今大会にもそのスランプの尾をいまだ引きずっているようで、プレーはどこかぎくしゃくとした感じがあり、慎重にというよりも恐る恐るボールを扱っているように見えるのです。中国チームの不安も相当なものだったらしく、蔡振華総監督がベンチに入るという「特例的措置」を講じています。

王楠への不安が象徴的にあらわれたシーンが、準決勝のボロシュ戦にあったように思えました。しかも4セット目、王楠がマッチポイントを握ってからのことなのです。

本調子ではない女王に、ヨーロッパナンバーワンの実力者が挑むというこの一戦は、「応援合戦」もあって興味をそそられたのですが、予想外に王楠の一方的な展開となりました。結果的には、ジュースにもつれ込んだ1セット目が勝負を分けました。王楠は、ボロシュの4回のセットポイントをしのいでもぎ取ると、第2、第3セットも奪取。4セット目も大きくリードを広げ、10-2とマッチポイントを迎えました。そこでボロシュが上げたロビングを、王楠が打ち損じたのです。王楠ははにかみ、ボロシュも「あらあら」というような笑みを浮かべました。

大勢が決したとき、最後の1本は観客のための「ショー」をすることがあります。2人の表情から、僕はそれに近い雰囲気が醸し出されつつあるのを感じました。次のラリーはショーとも真剣勝負ともとれる微妙なものでしたが、王楠にミスが出て10-4となりました。そのとき、蔡総監督は立ち上がって両手でTの字を作り、タイムをとったのです。会場の雰囲気に水を差すのも恐れぬ、なんという勝負の鬼!

中国には《千丈の堤も蟻の一穴より》ということわざがあって、確か、「どんな小さなことでも、油断すると大変なことになる」という意味だったと記憶しているのですが、ひょっとすると、蔡総監督は同じような心境にあったのかもしれません。少なくとも、本来の王楠なら、絶対にタイムアウトはとらなかったでしょうから。

とはいえ、僕が王楠の3連覇を困難だと思った理由は、彼女の「不調」だけにあったわけではないのです。
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