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第47回世界卓球選手権パリ大会見聞録 パリからの手紙 第6便

「ベルシーに集結した中国人の目には、まぎれもなく『王楠の日』と映ったはずです」──世界卓球選手権パリ大会を見た「僕」が、手紙スタイルで綴る連載「パリからの手紙」の6回目です。

執筆者:壁谷 卓

5月24日(土)

強い陽射しが照りつけた昨日が嘘のように、今日はまた朝から雲に覆われ、ときおり小雨も降りました。

大会も残り2日間となり、フロアに置かれた卓球台はついに1台のみになりました。昨夜、福原愛が敗れたため、日本選手がこのコートに姿を現すことはありません。ただ、大阪大会の個人戦では、開催国にも関わらず日の丸のユニフォームが登場しない日が3日間あったことを思うと、メダルは獲得できなかったものの、そうそう悲観的になるほどの大会でもなかったのかな、という気がしてきます。

とはいえ、残り2日間の試合を漫然と眺めるのもしゃくなので、中国の5種目制覇なるか、それを阻む選手は現れるのか、ということをメインテーマに観戦することにしました。別にそんなテーマなんかもつ必要はないのかもしれないけど、ひいきのチームを応援するとか特定の選手を追いかけるとか、そういう視座がなんにもないと、スポーツ観戦というのは意外につまらないものになってしまうのです。逆に、肩入れできるチームや選手があれば、ゲームのレベルとはあまり関係なく、十分に観戦しがいのあるものになるように思えます。

だからでしょうか、今日はスタンドに中国人が目立ちました。SARSへの感染が広がっている中国本土からの一般の観客はほとんどいないという話を耳にしたので、フランスに在住する中国人が週末を利用して駆けつけたのでしょう。そして、この日、すべての種目に登場した中国選手に声援と拍手を惜しみなく送りつづけたのです。その熱狂ぶりはパリの観客にもひけをとらないもので、まとまりではむしろ上回っています。そのため昨日までは、ヨーロッパ選手とその他の選手という試合であれば、ラリーを見逃したとしても、大歓声があがればヨーロッパ選手のポイントという判断ができたのですが、それが通用しなくなってしまいました。

そんなスタンドの「応援合戦」を眺めていると、中国の強さは案外こんなところに隠されているのかもしれないな、と思えてきます。世界規模で根を張る中国人コミュニティーの結束力を考えたとき、世界選手権がどこで開催されようとも一方的なアウェー状態にはならないだろうという推測が働きます。そして、人というのは、自分を見つめてくれる人がいるという確信があれば、たとえそれがたった1人だろうと、思っていた以上に踏ん張れるものだからです。

その「踏ん張れた」選手として、王楠を挙げたいと思います。少なくとも、ベルシーに集結した中国人の目には、まぎれもなく「王楠の日」と映ったはずです。
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