プレス代表の質問者が、張瑞とのベスト8決定戦について訊ねていた。
「最初から最後までバックを攻めましたけど、あれは作戦ですか」
「フォアが強いから」
「それから裏をかいてフォアに出したりとか、愛ちゃんがボールをうまく回してたような気がしたんですけど、中国の選手に主導権をとっているなという実感はありましたか」
「そんなこと、考えてる余裕なかった」
「振り返ってみて、念願の決勝トーナメントで昨日勝って、今日もすごくいい試合で、自分でこの大会をどんなふうに」
「次はもうひとつ勝ちたい」
「その手ごたえはありましたか」
「……」
「何か課題というか」
「相手がしつこいから、もっとしつこくならないと」
記者が質問する。福原が端的に答える。沈黙が訪れる。もう少し和やかな雰囲気の会見を予想していた私は少々面食らった。
場が笑いに包まれたのは、「すっきりした」「悔しい」という福原に、ある女性記者が、「悔しいのとすっきりしたのとの割合は」と訊ね、
「1万円のジュースがあって、そのジュースをいままでの小遣いで1本買って飲んで、全部飲み終わってすっきりしたけど、また飲みたいなー、みたいな」
と福原独特の表現で答えたときだけだった。
福原の能面のような表情はほとんど変わらず、義務的な空気が漂ったまま、淡々と進んでゆくのだ。
「いいですか?」
私は、同席していたミキハウスの広報担当者に、質問をする了承を得た。
張瑞戦の最終セットの中盤、リードを許していた福原はタイムアウトをとったのだが、そのあと戦術を変えて勝負に出た。「しゃがみ込みサービス」を初めて使ったのだ。そこで2本連取した勢いもあって、逆に8-7とリードを奪ったのである。
「タイムアウトをとったあと、しゃがみ込みのバックの投げ上げサービスに変えましたよね。あれは西飯監督からのご指示があったのか、それともご自分で判断されたのか」
「西飯さん」
彼女は、左隣りに座っている愛知工業大学の西飯徳康監督のほうを向きながら答えた。
ベンチコーチをつとめた西飯監督に、私はその意図を聞いた。