卓球/卓球関連情報

世界卓球選手権大阪大会ルポ 練習会場から見える風景(8)(2ページ目)

連載ルポルタージュの8回目。武田、川越の練習を眺めながら、私は高島氏と「会話」をつづけた。

執筆者:壁谷 卓

意味を把握できない私に、高島氏は「これは本人には言っていないんですが」と前置きしたうえで説明をはじめた。

「武田は胴が短いんです。上半身のひねりだけでは、なかなか強いボールが打てないんですね。フォアハンドを打つときに足を使わざるをえない。足を使って体重を移動させることで威力を出そうとするんです。ほら、右のひざが折れるでしょ?」

そのとおりだった。フォアハンドでの打球後、右ひざが内側にガクッと折れる。一瞬ではあるが確かに折れる。すると全体重が左足にのってしまうのだ。

バックハンドなら、そのまま体重を右足に移しながら無理なく打てるが、フォアハンドをしっかりと打つには一度、左足の体重を右足に移しかえる動きが必要になる。打ってからボールが返ってくるまで0・何秒というトップレベルの卓球では、その「一瞬」が致命的な遅れになる。

「川越には、『お前はとにかく腰だ。腰を悪くせんよう気いつけなあかんぞ』と。というのは、彼女は試合でものすごく緊張するタイプなんです。いかに試合を迎えさせるか、メンタル面の調整が難しい。技術的にあれこれ言うと、不安材料を増やすだけですから。腰はもうたいしたことはないんですけど、そうやって意識を別のところに向けさせておいて、技術的なポイントをちょっとずつ合間、合間に挟んでいるんです」

正確な知識や卓越した理論を持ち合わせた指導者は枚挙にいとまがないだろうが、それを素のまま提示するだけでは指導者として十分ではない。時として、選手をますます困惑させてしまうことすらあるからだ。選手にすーっと浸透していくような「伝達力」を兼ね備えてこそ、一流の指導者たりえるのだ。

そのような思いがあった私には、彼女たちの「吸収力」を踏まえ、さりげなく、だが確実に足りないものを補っていく元全日本総監督に、ひとつの理想型を見た思いがした。

練習会場から見える風景(9)
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