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さくらコラム第3回:スクワット1000回の謎

元女子プロレスラー・広田さくらは、ガイドが認める業界随一の奇才。そんな広田さくらが業界の謎にメスを入れる大好評連載中の特別コラム「秘密の女子プロレス」。第3回となる今回は過酷な練習について。

執筆者:川頭 広卓

一見、拷問。実際、軽い拷問

スクワット1000回の修羅場が脳裏をよぎり、その経験が心の支えになる(クリックすると拡大されます)
皆さんは、新人プロレスラーの練習というと、何を想像しますか?

スパーリングや受身など、リング上での練習はもちろんですが、まず最初は何をおいても基礎体力練習です。よく「プロレスラーはスクワットを軽く1000回」などと言いますが、実際、私も若手の頃はやらされました。

他にも「人乗せブリッジ」「手押し車」「股裂き」など、一見拷問のような文字が並ぶ練習もあり、これらは全て入団した練習生がリング上の練習に入る前に課せられるものなのです。こうした練習にある程度耐えられる体力、忍耐力が備わった時点で、初めてリングに足を踏み入れられるわけです。

もちろんGAEAでも、これらは全て練習項目に入っていました。実際、軽い拷問のようなもので、私も練習生時代、どうズルをすれば先輩に見つからず楽になるか、試行錯誤を繰り返していましたが、こればっかりは、全員で数えながら行っていたので、私のセコさを持ってしても、ごまかしは利きませんでした。中にはプラスして、アスファルトでブリッヂしたり、指で逆立ちしたり、一見奇行ともとれる練習をしているレスラーもいましたが……。

これらの過酷な練習方法は、先輩から後輩へ受け継がれてきた伝統の練習。しかし、今となっては、基礎体力向上のための効率的で理にかなった科学的なトレーニング方法はたくさんあります。トレーナーの方などからは「スクワット1000回なんて無意味です。逆に足腰痛めます。ハーフスクワット20回5セットもやれば十分」と、もっともな意見も出ました。

もちろん女子レスラーの中にも、トレーニング方法を勉強し、知識を持っている方もたくさんいます。ではなぜ、それでも新人女子プロレスラーの基礎練習には、拷問練習が息づいているのでしょうか。

拷問トレーニングの意味とは?

それは、これらの拷問トレーニングを経ることによって、効率だけを重視した練習では養えない、レスラーとして底力が育っていくからだと私は思います。試合中、本当の窮地に追い込まれた時や、アクシデントによるケガに見舞われた時、もう一粘りが出るかでないかは、練習でどれだけ修羅場をくぐってきたかが大きな分かれ目になるのです。

例えば里村(明衣子)選手が、試合終盤に倍近く体重のあるアジャ選手をデスバレーで担ぎ上げた時。スクワット1000回の修羅場が脳裏をよぎり、「あれだけやったんだから、担げるはず」と本当に思ったかどうかはわかりませんが、とにかく肉体的な自信はもとより、その経験が心の支えになり、土壇場での精神力を何度も生んだはずです。

もちろん私にも修羅場経験はありましたが、いかんせん試合中に底力を必要とする場面がなかったため、残念ながらその経験がリングで発揮されることはありませんでした。いってみれば、修羅場経験やる必要なかったともいえます。

私のことはさておき、練習生時代から道場で修羅場をいくつも経験させるのは、精神的に強くさせる上で必要なことです。GAEAの道場には、「結果の前の自信、結果の後の自信」という言葉が貼ってありましたが、拷問トレーニングは「あれだけやってきたんだ」という自信を持つための練習でもあり、レスラーにとって大切な「意地」「負けん気」、そして何より「底力」を育てるための何たるかが隠されているのです。これらの事を知っているからこそ、拷問トレーニングが今も大切にされているのだと思います(多分)。

そして何といっても、一般の方に「スクワットって、ほんとに1000回もやるんですか?」と聞かれて、胸を張って「はい」と答え、その後「やっぱり、レスラーってさすがですね」と言わせる。このようなやり取りが出来るというのも、レスラーとしてとても大切だと思うのです。やっぱりレスラーたるもの「さすが」といわれなければいけないですものね。

それでは、また次回お会いしましょう。

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