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終わりなき新日本プロレスの苦悩と迷走

11月14日、ゲームソフト開発の株式会社ユークスが新日本プロレスの株を51.5%取得。その説明には、疑問を感じる部分も多く、新日本の苦悩と迷走が見てとれるのだ。

執筆者:川頭 広卓

新日本プロレス、いずこへ

試行錯誤を繰り返し新日本プロレスは、どこへ向かおうとしているのか
11月14日(月)東京ドームホテルで行われた新日本プロレスリング株式会社と、ゲームソフト開発の株式会社ユークスの共同記者会見。その内容は、ユークスが新日本プロレスの株式51.5%を取得し子会社化するというもので、何でも、新日本プロレスを敵対的買収の脅威から守る救済買収だという。しかし、この発表に疑問や違和感を覚えた人は少なくないだろう。

敵対的買収は、非上場企業を相手にする場合、直接株主から株の買い取りを行うことにより、逆に上場していない方が行いやすい場合もある。だが、新日本プロレスの大株主はアントニオ猪木。今回のケースの様に、猪木が首を縦に振らない限り、敵対的買収の危険性は極めて小さい。

また、過半数の株を取得することだけが、敵対的買収の脅威という訳ではなく、ライブドア‐ニッポン放送の買収問題で話題となった議決の拒否権を持てる33.3%という株数の所有ラインもある。仮にアントニオ猪木が株の譲渡を拒否したとしても、残りの株数で33.3%のラインを超えることにより、新日本プロレスの経営に十分参画することもできる。が、この場合、ユークスがアントニオ猪木から過半数の株を譲り受けたとしても、依然敵対的買収の脅威は残されていることになるので、やはり救済買収とは言い難い。
いずれにせよ、新日本プロレスの買収劇には不可解な点が多く、説明責任が十分果たされてはいない。

未だ見えない復興の兆し

ちなみに、新日本プロレスの会見で同じように違和感を持ったことがあった。遡ること4ヶ月前の7月27日、新日本プロレスは都内で新コンテンツビジネス戦略発表という名目で記者会見を行った時のことだ。会見には、携帯分野で提携するKDDI株式会社のコンテンツ・メディア事業本部コンテンツ推進部長、竹之内剛氏、ゲーム分野で提携する株式会社ユークスの代表取締役社長、谷口行規氏も同席した。新日本プロレスの新コンテンツビジネス戦略とは、携帯やブロードバンドでの動画配信を中心としたモバイルサイトのリリースであった。KDDIが全面開発し、EZweb公式サイトでプロレス団体のモバイルサイトとしては最大規模のボリュームで展開される。

まずKDDIと提携し、オフィシャル携帯サイトをオープンする。目玉のサービスとして、携帯による試合の動画配信を年間120大会全試合で配信、興行終了後3時間以内にダイジェスト版(約15秒)の映像を流すという。「試合の臨場感を伝え全国2,000万のファンのスタンダードコンテンツにしたい」と、新日本プロレスは意気込む。月額315円の有料サイトになるという。

ファンにとっていかにも耳ざわりのいいこのサービス。他団体を含め、構想はありながらも実現した前例はない。なぜなら人員のリソースや採算性といった問題が立ちはだかるからだ。例えば、315円の月額料金で10000人を集めても月額約300万の収益にすぎない。しかも、携帯のezwewb公式コンテンツというだけでは、すぐさま10000人規模で集客するなど至難の業だろう。おそらく1000人集めるのも、苦労するに違いない。しかも有料コンテンツであるが故に、新規の一般のユーザを獲得することは難しく、既存のプロレスファンに頼らざるを得ず、狭いマーケットを相手にすることになる。また、年間120試合の動画をダイジェストに編集し、3時間でアップするには、少なくとも毎回3~5人の人員が必要である。さらにカメラ、その他の機材、インフラ、旅費、コンテンツ開発費諸々含めると、一体コストは幾らになるのか。赤字の垂れ流しが続けば、せっかくのサービスも行き詰まり、それこそ業界内外に不信感を与えかねない。

当時の会見では、新日本プロレスが従来のイメージを一掃し、一興行団体から総合エンターテインメント企業へと脱皮する第一歩なのだと力説された。プロレス人気復興とさらなる発展を誓ったわけだが、いまだその兆しは見えてこない。

見え隠れする関係の脆弱さ

話を戻そう。新興企業によるプロレス団体救済は、大いなる可能性を秘めている。それがプロレス関連コンテンツを手がけるユークスであれば、シナジー効果も高い。しかし今回の一件で、両社の関係はかえってねじれてしまった印象を受ける。

ユークス側は新日本プロレス経営に対し、必要以上の介入をしないのだという。仮にもユークスは上場企業。子会社を抱えつつ、その経営に参画しないとすれば、彼らは株主にいったいどう説明するつもりなのだろう。そもそも、敵対的買収の脅威から守るために、ユークスは新日本プロレスへと手を差し伸べたのだろうか。

おそらく、そんなはずはない。にもかかわらず、無理やりに着地点を見つけたのだとすれば、そんな関係が長続きするとはとうてい思えない。

新日本プロレスの苦悩と迷走は、きっとまだ続く。

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