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“黒いパンツの頑固者”伊藤博之の自然体

前田日明曰く「日本プロレス界に、すべてのスタイル・闘いに対応できるリアルプロレスラーはいない」。しかし、その孤高の道を辿る物がいる。名は伊藤博之。黒いパンツの頑固者だ。

執筆者:川頭 広卓

「このメンバーでは、意気込む必要もない」

黒いパンツの頑固者 伊藤博之(右)。プロレス界の大黒柱となる日はそう遠くない(クリックすると拡大されます)
2005年2月15日、新日本プロレス・ヤングライオン杯出場が決まった伊藤は、他の参加選手について聞かれると、あたかも当然の様に語った。
 事実、7名参加のリーグ戦において、伊藤は後藤洋央紀戦での引き分け以外、全て白星を飾っている。ぶっちぎりで決めた決勝進出は、外部参戦者としては史上初快挙だった。

 「1ヶ月に7試合もしたのは始めてだったので、体調を維持するのが大変でした。気を張っている筈なのに、風邪引いたりしていたんですよ。出る前に怪我してたのも長引きましたし。でも、1試合1試合、“これがダメなら(終わり)”という気持ちでやっていたので、試合毎に全てを出し切りました」
 本リーグ戦において、他団体から唯一の出場となった伊藤は、試合で少しでも不様な姿を見せようものなら二度と出場するチャンスが与えられないという覚悟ができていた。
 そんなプロとしての自覚と気持ちの強さを持つ彼は、プロレス界のメジャー団体、新日本プロレスの有望株をことごとくなぎ倒してみせた。ではなぜそれほどまでに頑固な精神力を身につけることができたのか。それには伊藤が前田道場で過ごした2年間について、触れなければならない。

前田道場で鍛えられた気持ちの強さ

 およそ8年前、伊藤は柔術に興味を持ち始めるや単身渡米。サンフランシスコにあるカーリー・グレイシー道場の門を叩き、コツコツと鍛錬を重ね、1999年にはCAMPEONTO JAPONES DE JIU-JITSUアダルト白帯メジオ級で堂々の優勝をはたした。リングス前田道場へと入門したのが、翌年の2000年3月5日である。

 今更言うまでもないが、前田道場の練習量は尋常ではない。それは今も尚、リングス出身者の誰もが口にするほどだ。それでも伊藤が新弟子として、雑用を一手に引き受けながら、練習を続け、過酷な日々を乗り切ることができたのは
「キツイのが当たり前と思って入門してますから。いつも、キツイ練習を頭で想像するんですよ。明日、スクワット1000回やらされると思って、道場に行って、実際の練習で500回だったら、気持ち的には楽じゃないですか」という前向きな考え方からだった。

 元来プロレス界における道場では、どんなに厳しい練習を想定しても、それを上回る現実があった。だからこそ、入門初日で逃げ出すような者も多く、逆に言えば過酷な練習を耐え抜いたからこそ、大観衆の前で、スポットライトを浴び活躍することができる。業界随一の厳しさと言われた前田道場。ある道場出身者は「弱い者は逃げ出すしかない。すなわち、強い者を更に強くする場所」と語っていた。前田道場で過ごした、伊藤の2年間は、天性の気持ちの強さを揺るぎない自信へと変えていった。

リアルプロレスラーという孤高への道

 伊藤の気持ちの強さを如実に表した試合があった。11月12日(土)、北沢タウンホールで開催された、フーテン・プロモーション主催興行『バチバチ(BATI-BATI)3』のプロレスリング・ノア森嶋猛戦だ。

 伊藤にとって、『バチバチシリーズ』、またそれを主催する池田大輔との出会いは一つの転機となるものだった。
「プロレスラーとして、池田さんに出会えたことに感謝してる。バチバチは、昔、自分が見ていたプロレスをそのままやればいいんだって思えた瞬間、これまでの(プロレスに対する)悩みが吹っ飛びましたから」

 そんな伊藤の純粋な気持ちを良心的に汲み上げ、メジャー団体プロレスリング・ノアからの刺客と対戦を組んだのは、池田の期待の表れか。その試合で伊藤は、森嶋から戦意喪失を迫るほどの強烈なローキックを打ち続けた。その徹底振りは、“これが本当にプロレスの試合か”と疑ってしまうほど。距離をとりながらローを放ち、それを嫌がった森嶋が組み付いてくれば、膝蹴りをボディへ放ち、離れ際にやはりローを繰り出す。
「レガースつけるなら、最低限(カット)のことやってこいよ。自分はカットしてましたから。蹴りがなってない」
メジャー団体の猛者を前にしても一切動じることなく、また、自ら天職とも呼ぶこのスタイルを不器用な程頑なにぶつけていった結果が、このような展開を生んだのかもしれない。

「前田(日明)さん曰く、日本にリアルプロレスラーって、誰もいないらしいんで、自分がそうだと認めて貰えるようになりたいですね」
現在、日本プロレス界に、総合格闘技、U系のスタイル、プロレスと、全ての闘いに対応できるレスラーがどれだけいるのだろうか。伊藤はそれをリアルプロレスラーといい、特に難しく区別はしていない。その根底には、持ち前のハートの強さがあり、前田道場で培った自信があるのだろう。黒いパンツの頑固者、伊藤博之がプロレス界の大黒柱となる日はそう遠くない。
<関連リンク>
伊藤博之Blog
A-SQUARE

<関連情報>
現在、伊藤は“世界のTK”高阪剛が主宰するチーム・アライアンスに所属。普段はそのオフィシャルフィットネスジムA-SQUAREで、ジム生へ柔術や総合格闘技の講師を勤める。伊藤のクラスに参加する生徒は、終始笑顔が絶えず、意欲的に、それでいて楽しみながら技術の習得を目指しており、穏やかながらも規律ある授業風景は伊藤の人柄そのもの。そんなA-SQUAREは、2005年12月と2006年1月に入会金が半額となる。この機会に格闘技に触れてみてはどうだろうか。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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