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秋山事件なぜストップできなかったか?(3)

今年の大晦日、唯一の地上波放映となった『Dynamait!!2006』を舞台に勃発した、秋山vs桜庭の“ヌルヌル”騒動。その大勝負を台無しにした物はいったい何だったのか

執筆者:井田 英登

異常決着に、ファンの抗議が集中

この大会が大晦日に放映された事の影響は思いのほか大きかった。通常の大会であれば、主な視聴者は格闘技ファンを中心とした、『格闘技を見慣れた層』である。言ってみれば、よくも悪くも試合の判定というものには揺らぎが出る事を知っており、過ちが出ても“まあそんなもんだろ”で受け入れてしまう『熟れた層』である。

だが、この日ブラウン管の前に陣取っていたのは、そんな“インサイダー”のファンばかりではない。普段格闘技を熱心には見ない、逆に言えば新鮮な目を持った視聴者も多く含まれている。格闘技のマニアックな綾は判らなくても、ゲームとしてスポーツとして公正に試合が運営されていなければ、その部分の異様さを指摘できる“イノセント”な目が試合を見守っていたのである。

これまで視聴率アップのみに躍起となってきたイベント運営側にとって、そういうファンは、“格闘技を見る目が無いミーハータイプ”という、一種見下した視線でのマーケティング意識があったのではないかと思う。だからこそ、大晦日のビッグイベントでは、格闘スポーツの醍醐味より選手のパーソナリティを重視した、タレント起用やドラマ性優先の“お祭り的”マッチメイクがまかり通って来たのだ。

だが、格闘技の知識や選手のプロフィールを知らないからといって、スポーツを見る目までが拙いと考えるのは、はっきり言って傲慢であろう。むしろ、普段格闘技のデフォルトとなる前提を知らないからこそ、野球やサッカーといった勝負論の明快な他のメジャースポーツを見るのと同じ、厳しい目でリングの上を見つめる事の出来る層が、この日の視聴者のなかには沢山居たのだ。

 放送終了直後から、ラストの不可解さにファンの批判が盛り上がる。特にネットを中心とした抗議行動は群を抜いた勢いを示していた。

 ファンの議論は格闘技関連の掲示板をハブに盛り上がり、桜庭の試合中の抗議の声を逐一採録したもの、あるいは秋山の柔道時代の胴衣の不正の過去、セコンドが発したとされる「滑らせろ」という不可解な指示、あるいは不正グローブ疑惑、マスコミも指摘できなかった数々の問題点を次々に指摘していく展開を見せた。特に映像共有サイトであるYou-tubeを利用して試合映像をアップロードして共有、検証にあたるなど、ネットならではの活発な議論が繰り広げられた。

 これは我々マスコミは逆に試合翌日に主催者の開催した、“一夜明け会見”で、秋山当人が発した「僕は自律神経失調症の気味があって多汗症なので、その汗で滑ったと思ったんじゃないでしょうか」という発言を鵜呑みにするしかなかった段階の話であり、如何にファンの情報網がこの件に関して敏感であったかを物語っている。

 事実ファンの熾烈な追求の声は、主催者も無視することができない勢いに変わって行く。例えば、試合を裁いた梅木レフェリーのblogなどは、10日間足らずで1万5000件(最終的に1万9000 件を越えた)のコメントが集中する“大炎上”の様相を呈した。その大半が、桜庭のタイム要求を看過した彼の判断に対する批難だったのである。

 また、ファン同士の意見交換によって集められた情報を、「まとめサイト」として統合するサイトも現れ、中には具体的な抗議先として中継を放映したTBSや番組をスポンサードした企業の広報連絡先を明記していた。要するに、意見交換だけでなく、この結果に対する不満の意思表示し、追求を要求しようという動きさえ出て来ていたのである。

まさに最高平均視聴率19.9%をマークしたというこの日の中継は、主催者の想像を超えたものへと成長していたのだ。

秋山事件なぜストップできなかったか?(4)
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