メインを差しおいて、警官ファイター参戦のセミに全米注目


「UFCの顔」であるはずのヘビー級王座も、近年存在感のない王者が続き、地盤沈下が言われて久しい。オルロフスキーは、歴史に残る王者となることができるか?
「UFCの顔」であるはずのヘビー級王座も、近年存在感のない王者が続き、地盤沈下が言われて久しい。オルロフスキーは、歴史に残る王者となることができるか?
第8試合 メインイベント UFCヘビー級タイトルマッチ 5分5R
○アンドレイ・アルロフスキー(ベラルーシ/アルロフスキー・ピットブル・チーム/王者)
×ポール・ブエンテロ(アメリカ/アメリカン・キックボクシング・アカデミー/挑戦者)
1R 0'15" KO (パンチ)

※アルロフスキーが王座防衛

UFCの12年の歴史の中でも7番目に早い秒殺劇で終わったメイン・イベント。

ポール・ブエンテロの右ストレートをかいくぐった、アンドレイ・アルロフスキーが右のショートフックを顎にヒット。そのまま前のめりにブエンテロが倒れ、アルロススキーが追い討ちをかけようとしたところでレフェリーが試合をストップ。観客にとっては分かりにくい攻防だったので、会場はブーイングに包まれたが、すぐにスローモーション映像が流れ観客も納得。アルロフスキーの文句無しのKO勝利となった。

正王者となって初の防衛戦となったこの試合、プレッシャーも大きかったらしく、アルロフスキーが再び腰に戻って来たチャンピオンベルトを巻きながら号泣する一幕も見られた。

しかし全米が注目したのはメインのこの試合ではなかった…。



警官と言う身分を理由に、スケープゴート(犠牲の山羊)としてオクタゴンに引き込まれた、プロ二戦目のルーキー。待っていたのは“公開処刑”にも等しい結末だった
警官と言う身分を理由に、スケープゴート(犠牲の山羊)としてオクタゴンに引き込まれた、プロ二戦目のルーキー。待っていたのは“公開処刑”にも等しい結末だった
第7試合 スイングバウト ヘビー級 5分3R
○ブランドン・リー・ヒンクル(アメリカ/ハンマーハウス)
×ショーン・“ザ・キャノン”・ギャノン(アメリカ)
1R 4'14" TKO (レフェリーストップ:グラウンドパンチ)


プロ総合戦績は1勝0敗。その1勝も、去年の8月MD (Mass Destruction)というボストンの「ザ・アヴァロン・クラブ」というクラブで定期的に開催されているローカル大会。まして相手は大物選手ではなく、同じくボストン近辺のCZ(Combat Zone)やECFC(East Coast Fighting Alliance)辺りで闘う無名選手。――そんな、ショーン・“ザ・キャノン”・ギャノンがなぜオクタゴン・デビューまで漕ぎ着けたのか? 

このシャノンという選手はボストン市の現職警官なのだが、昨年、州のアスレチック・ミッションが認定していないアンダーグランドMMA大会で、キンボ・スライスというボストンのストリートではちょっと知られた悪童と試合をしているテープが露見。それが警察内部調査の対象となり、ローカル・レベルではあるが一般マスコミがこの一件を取り上げ、ちょっとしたニュースの中心的人物になった選手なのだ。

うがった言い方をすれば、彼の起用=センセーショナルな話題作りに他ならない。だが、これが「TUF」を経由した、今のUFCの現実でもある。メディア戦略に敏感となったUFCにとって、話題性の高いギャノンは=客を呼べる選手なのだ。

しかも、今大会の一ヶ月前には、ボストンの「ロキシー」というクラブで行われていた非合法MMA大会にボストン市警が強制捜査を執行するという“事件”も勃発している。もちろん試合はその場で中止。そしてこれを理由に、ボストン市でのMMA興行は明確なガイドラインができるまで一時禁止、となってしまったのである。

今やボストン警察にとって“アングラMMA”イベントは取り締まり対象である。あえて現職警官であるギャノンをオクタゴンに上げることで、州のアスレチック・コミッションに認定される“メジャースポーツ”UFCと、アンダーグランドMMA大会は全くの別物だという事を世間にアピールするーーこのマッチメイクにはそんな社会的/政治的な意味合いも込められていたのである。

そしてそんなメディア戦略が功を奏したのか、ニューイングランド地方各主要都市の新聞紙はこぞってこのギャノン選手のUFC参戦を報道した。(今大会が開催されたコネチカット州、そしてボストンが首都のマサチューセッツ州などその周りの4つの州を合わせてニューイングランド地方と言う)

これでギャノン選手が何でもできずに完敗すれば、アンダーグランドMMA大会に出ている選手とUFCの選手とではレベルが違う、雲泥の差だ、ということも明確になり一石二鳥どころか一石三鳥にもなる。

そんな思惑が、Zuffa社またはダナ・ホワイト社長の脳裏にあったかどうかは定かではないが、あにはからんや、この試合は、シナリオ通りの展開となった。

“丸腰の警官”を待ちうけていたオクタゴンの“現実”は、路上の凶悪犯よりも容赦がなかった
“丸腰の警官”を待ちうけていたオクタゴンの“現実”は、路上の凶悪犯よりも容赦がなかった
レスリングをバックグラウンドとする、ベテランファイター、ヒンクルは、巨体のギャノンの懐に入り込むとフェンスにおつしけテイクダウン。レスリング全米学生チャンピオン(ディビジョン2)と州の柔道チャンピンの差は明らかだ。ヒンクルは上からパンチの連打。両手で顔面をガードするだけで、ガード・ポジションをとることすらも忘れているようなギャノンは、そのままパウンドを受け続け、あっという間に顔面を血だるまにされてしまう。

この哀れな光景に、レフェリーが割って入り試合をストップ。まさに公開処刑と呼ぶに相応しい、UFC初期の試合を彷佛させる凄惨な結果となった。

ただ観客は大喜び。度々暴力事件や汚職事件を起こすことで悪名高いボストン市警は、アメリカ国内でも有名なのだ。その警官がタコ殴りにされているのだから、アメリカの一般的市民にとって、これは結構痛快なシーンだったのである。

TV的にも、社会的話題性をとっても、UFCの技術水準の高さを示す意味でも、すべてのシナリオはUFCにとっては万々歳という結果となったと言える。

【試合後のコメント】
ブランドン・リー・ヒンクル:マーク・コールマンからは「テイク・ダウンとパウンドだけでいけ」と言われていた。最高のフィーリングだ。もっといい試合はできたと思うし、最高の勝利という訳ではないけどね。これで、俺は世界でも有数のハードパンチャーだという事を証明できたと思う。これからも闘い続けていたい。それ以外のことは心配したくないし考えたくないね。

ショーン・ギャノン:戦略はあったんだけど、その通りに闘えなかった。ダナ(ホワイト)の期待を裏切ってしまったという気持ちだ。でもクラブでの試合から、UFCに出れたという事は俺にとってはビッグステップだ。でもブランドンはレスラーとして強すぎた。