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DV被害を越えて~女子三冠王ローラの敗者復活戦(2ページ目)

この夏、センセーショナルな日本デビューを飾った女子三冠王ローラ・ディオーガスト。しかし、彼女がかつてDV被害者だった事を知る人は少ない。

執筆者:井田 英登

彗星のように日本デビューした女子三冠王・ローラ・ディオーガスト

今年の夏、ある外国人格闘家が、日本の格闘技界にデビューした。

8月17日代々木第二体育館で開催された女子格闘技スマックガールの最大級イベント>「Dynamic!!」の目玉である初代ミドル級王者決定トーナメント。既にこの大会以前の四月大会六月大会で開催された一回戦をそれぞれ勝ち抜いた薮下恵、テビ・サイ、大向美智子らが準決勝にコマを進めて来た(大向は怪我で欠場、代わりにキックボクサーの彩丘亜沙子が出場)。そのトーナメントの第四の枠に主催者推薦のシード選手として参戦してきたのが、ローラ・ディオーガストだった。

現在、日本の格闘技界では、スマックガールを始め複数の女子専門団体が存在するため、シーンが非常に活性化しているが、アメリカではまだまだ男子の大会のお添え物として一試合か二試合が挟み込まれるのがせいぜいという実情がある。したがって実力者が居ても、なかなかシーンの中央に認知されるまでにはいかない。


スマック初代ミドル級王座獲得で「三冠女王」となったローラ
スマック初代ミドル級王座獲得で「三冠女王」となったローラ
既に、ローラはReality FightingとRing of Combatというイベントで、ウェルター級の女子二冠王に君臨する強剛だが、所詮それは米・東海岸のローカル大会のタイトルでしかない。本当の実力を証明するには、やはりシーンが最も熱い日本のリングで結果を残すしかないという状態にあったのである。

だが、前評判に違わずローラは、今回の日本デビュー戦でもそのポテンシャルを如何なく発揮した。フランスからの留学生で、キックボクシングをベースにした活きのいいファイトで売り出し中だったテビ・サイを、試合開始早々三角締めに捉え、あわや秒殺かと思わせる展開を見せる。

アメリカの女子格闘技の試合では、男子と同様グラウンドパンチが自由なため(スマックではグラウンド30秒の制限がある)、パウンドでのTKO勝利を飾る事の多かったローラだが、実は男子のグラップリング大会で優勝するのが夢と語るほどのグラウンドの名手。かつて、柔術茶帯の実力者であるモダフェリを完封した実力はホンモノだった。スタンドファイターであるテビは、その懐の深さになすすべもなく完敗を喫してしまったのである。

続く決勝でも、柔道で鳴らした元プロレスラーの薮下の豪快な投げに苦しみながら、30秒ルールの最中に何度も三角締めを極めにいく寝技の冴えを発揮。追いつ追われつのシーソーゲームを、判定でもぎとって優勝を飾ってしまった。

まさに、シンデレラ誕生というべきトーナメント制覇劇であった。

だが、その強さもさることながら、本当に驚かされたのはローラの試合前の自然体ぶりに、であった。

バックステージで試合を待つ間、通常、選手は試合に向けて必死に精神集中していく。ワンナイトのトーナメントとなれば、一日に二回三回と試合を重ねねばならず、ピークに達した緊張を切らさずに次の試合につなげなければならない。一回勝った事で安心してしまったり、気力を絶やしたりする選手は、どんな実力者であってもトーナメントでは勝つ事が出来ないからだ。

そのため、次の戦いまで、体力回復を待つ間、外界の雑音を遮断してヘッドホンで音楽を聴いたり、一心に黙祷したり、無理にでも眠ったりと、選手たちは様々な工夫を凝らす。

実際、この大会で決勝の対戦相手となった薮下も、バックステージの片隅で祈るような表情でうずくまったり、セコンドの最終チェックを熱心に聞いたりと、まさに“張りつめた糸”を感じさせる緊張の表情をみせていた。

だが対するローラの方と言えば、まったくこれから試合に臨もうという緊張感が無かったのである。セコンドとジョークを飛ばし合ったかと思えば、次の試合に出て行く選手のテーマソングに乗って踊り出すなど、リラックスの極地。まるで、間違ってバックステージに迷い込んだ観客のような天衣無縫さをみせていたのである。

だが、後日その背景にある彼女の「格闘家」以前の経験を聞いて、僕は、この明るさが、実はその地獄のような経験とのコントラストから生まれたものだと、思い知ることになる。
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