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新しいプロレスか?時代錯誤のマッスルコメディか? 「ハッスル」お前は何者だ(下)(2ページ目)

破竹の勢いでブレイクしつつあるプロレスイベント「ハッスル」の秘密を、あくまで格闘技サイドの視点からシビアに探る。

執筆者:井田 英登

小川ハッスル”
寡黙で口下手な柔道家から、日本一マイクアピールの似合う男へ。“男には一生に一回ハッスルしなきゃいけない時がある”。
特に転機となったのは、プロレス転向後のゴタゴタ続きでファンの支持が固まらなかった小川直也を、PRIDE-GPを経由させることで「再生」したことだろう。

それまで興行的に低迷が続いていた「ハッスル」の“広告塔”という非常に利己的なキャラ付けを施されて、小川はPRIDE-GPに登場した。

デビュー直後「プロレスファンの皆さん、目を覚ましてください」と言う迷台詞を吐いてプロレスファンの心理を逆なでし、アンチプロレス的存在に捉えられてきた彼が、PRIDEのリングで純「プロレス」である「ハッスル」をひたむきに擁護する構図は、小川のキャラを180度逆転させることになった。

元々オリンピックメダリストとして、総合での能力を評価する声は高かったが、それに伴う戦績のなかった小川だけに、GPという晴れの舞台に起用することは、一歩間違えればそのPRIDEの信用度を落しかねない。あえて小川の潜在能力にチップを積んだ、その思い切りはやはり賞賛されて然るべきであろう。ベンチャービジネスとして「ハッスル」初期の低迷を挽回すべく、勝負に出るべきタイミングと見たDSEの攻めの姿勢がそこに見える。

確かに試合で実力を示してからのアピールであれば、何でも通る。それがギミック満点のプロレスイベントのアピールであっても…いや、場違いだったからこそ逆に、格闘技人気に鬱屈したプロレスファンの琴線に触れたのかもしれない。

小川とハッスルの人気は、4月のPRIDE-GP開幕戦を境に急上昇していくことになる。

ハッスルハウスという起爆剤


真剣勝負のリングで一つの結果を出した小川の奮闘によって、ファンには「ハッスル」を受け入れる素地が出来上がった。そこで求められるのは、「ハッスル」自体がどういうテーマに収束していくのか、「ハッスル」を見に来ることによって観客は何を楽しめばいいのかという、明快なヴィジョンであった。「WRESTLE-1」の項目でも書いたことだが、哲学があってもヴィジョンのない舞台に観客が熱狂することはない。

それまで1万人クラスのアリーナで開催してきた「ハッスル」だが、正直動員は今ひとつ。そこでDSEは一つの実験を開始する。あえて2000人クラスの中規模会場後楽園ホールを舞台にする6・28「ハッスルハウス」の開催である。

当然、この規模の興行にこれまでのようにゴールドバーグやアウトサイダーズといった海外のスーパースターは招聘できない。逆に散漫なスーパースタープロレス以外の何かを、「ハッスル」の軸にするというファンに対する謎かけがそこには隠されていた。

小川ハッスル”
“ビターン”の洗礼で“猛牛男爵”に変身させられたダン・ボビッシュ。額の「牛」一文字で怪奇派入り。
この日、高田モンスター軍としてハッスル軍との対抗戦に駆り出されたレスラーは、すべて怪奇派のマスクマンだったのである。アマゾンの奥地で発見した驚異の身体能力を持つ男に、高田総統がピラニアのDNAを移植したという“ザ・ピラニアン・モンスターZ”、ルーマニア出身の空飛ぶ吸血貴族“ザ・フライング・バンパイア”、人形に異常な執着を持つオタク怪人“サイコ・ザ・デス”…いずれも70年代の胡散臭いマスクマンの再現であり、無名のレスラーにキャラ付けしたギミックに過ぎない。

試合の幕間にスクリーンに映し出される高田モンスター軍の寸劇で、彼らが通常のレスラーから高田総統の改造光線“ビターン”によって「モンスター」に変身させられる様子がファンに伝えられる。

これまで有名ではあっても、烏合の衆でしかなかった外人勢を一掃。「ハッスル」というファンタジー空間を、70年代のB級特撮ドラマ風のストーリーでテーマパーク化し、「ハッスル軍」との戦いに一本の大河ドラマ的な流れを新たにスタートさせたことになる。
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