“リアル・スパイダーマン”アローナの猛攻
試合は、序盤から持ち味の粘っこいグラウンド技術を全開にしたアローナ優勢に進んだ。アローナの胴タックルを強引にランペイジが押しつぶすと、すかさず足を胴に絡み付けて下からの腕十字狙いに移行する。さすがはアブダビコンバットのトーナメントを制した寝技巧者だ。
ランペイジも柔術の心得はあるが、やはり技術水準が違いすぎる。勝つためには、どうあっても打撃勝負の一点突破を狙うしかない。寝技に付きあうのは早々に放棄して、ランペイジはひたすらスタンドへ戻ろうとする。しかし、アローナの引き込みは執拗だ。立ち上がっても立ち上がっても、気が付けばアッという間にグラウンドに引き込まれる展開が続く。
なんとか三角締めを凌いで頭をぬいたランペイジを待っていたのは、頭部に降り降ろされるカカト蹴りであった。通常グラウンドで下のポジションになった選手が使う蹴りが、頭部にヒットすることはなかなか無い。上になった選手が無防備に頭部を晒す状態になることを嫌って、上半身を起こしパウンドしやすい状態で相手をコントロールするからである。
だが、アローナは下になっても瞬発力があるために、押さえ込むことが非常に難しい。下になっているのはランペイジが押さえ込んでいるというより、下からの攻めを狙って進んで寝ているに過ぎない。したがってランペイジは暴れ馬の背中に乗っているような状況を強いられる。結局得意のパウンドには持ち込めないため、何とか振り落とされないように、べったり被いかぶさって押さえ込む事に意識が集中する。
アローナのカカト蹴りはそんなランペイジの一瞬の心理の絢に付け込んだ罠であった。相手をべったり手足で搦め捕り、捕獲した相手に次々罠を仕掛ける“リアル・スパイダーマン”アローナの本領発揮といったところであろうか。
すかさず第二打、第三打がランペイジの頭に打ち込まれる。
この攻撃でランペイジは「一瞬意識が飛んだ」と後に告白している。チャンスと見たアローナは、そこで腕十字へ移行する。何とかこれを抜いたランペイジだが、既にアローナの足はランペイジの肩に掛かった。三角締めだ。
切迫した表情に変ったランペイジの頭が、がっちり食い込んだアローナの足から覗く。万事窮すか？
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| アローナ「（パワーボムのダメージは？）ない。叩き付けられた時には意識がなく、目覚めたら目の前にレフェリーの足があった。」 |
しかし、怪力を誇るランペイジには、普通人にはない驚異の返し技がある。
かつて佐竹雅昭を頭蓋骨陥没で引退に追い込んだ必殺の投げ技である。極めに入ったアローナをそのまま抱え上げ、ぐんと反り返ったランペイジはそのまま頭上まで勢いよく、自分の首にぶら下がったアローナを抱え挙げてしまったのだ。まさに怪力ランペイジだから許される荒技だ。そのまま一気に、アローナを背中からマットに叩き付ける。どーんと鈍い音がマットに響き、次の瞬間、マットの上には目が飛んだ失神状態のアローナが横たわっていた。
すかさずランペイジは止めのパンチを、無抵抗のアローナの顔面ぶちこんだ。ほとんど反射的な攻撃であろう。危険とみたレフェリーが試合をストップさせ、ランペイジのTKO勝ちが宣告された。
見事な逆転勝利の構図だが、この決着に実は大きな落とし穴があったのである。
