パンクラスの8/30両国大会は、幾つものドラマを生むことになった。
中でも元UFCヘビー級王者ジョシュ・バーネットを対戦者に迎えた、第11代無差別級王者決定戦に挑んだ近藤有己の戦いは、敗れたとはいえ、圧倒的な対格差をものともしない果敢さで大いに話題を呼んだ。
ジョシュに持ち去られたベルトの追撃戦には、当日リングサイドの放送席に陣取っていた高橋義生がスクランブル出撃を宣言し、10月13日の新日本プロレス「アルティメット・クラッシュ」でのタイトルマッチが行われる事になった。
だが、敗れた近藤にすれば、それで一件落着とはいかない。
対戦直後のインタビュウでも早々に「このままじゃ終われないですね。向こう(新日本)に上がるつもりです」と自らの失地回復を宣言している。
11月には再び両国という大舞台で菊田戦という大一番を迎えることになった近藤だが、その後には再び新日出撃も噂されており、筆者の入手した情報では、迎え撃つ新日側の選手として、一発目から対抗戦のキーになりそうな名前が挙がっている模様である。
一端はジョシュのベルト奪取成功で、対抗戦の蚊帳の外に押しだされたかに見えた近藤だが、どっこい、まだ格闘技の神は近藤を見放してはいないようなのだ。
また、近藤にとって、新日本プロレスは未だ見ぬルーツの地でもある。
船木、鈴木というパンクラスの創始者二人を産んだ場所。そこにパンクラスismの正統の後継者である近藤が挑むという構図は、非常に興味深い。
UWFという運動体はこれまで、二度、新日逆流入現象を起こしている。
一度目は第一期UWFの崩壊に伴う前田、高田、藤原といったメンバーの出戻りで、そのとき代表としてマイクを取った前田は「これまでのUWFの一年間が何であったか、確かめるために戻ってきました」と、Uと新日の思想戦であることを明快にえぐった名文句でファンに自分たちの立ち位置を明快にして、前田達は認知度を上げた。この一言を軸に「新日のマットの上でUWFを見せる」事に成功したわけで、その数年後に派生した第二期UWFの独立の原点を作ったといえるだろう。
続く二度目は、高田率いるUインター勢の「対抗戦」だが、こちらは顔ぶれの新鮮さだけで成立したようなものであり、両者の力関係が興行に影を落とす形で、特にイデオロギー闘争にもならず、次第に刺激が薄れると共に収束。Uインターはそのまま、自主興行でも失速していくことになる
今回のパンクラスVS新日の構図がどちらに当てはまるかはわからない。ただ、前田なり高田なりの“船頭”立場に今立っているのは、間違えなく近藤だ。近藤の戦いや言動一つが、この対抗戦に意味を与えるか失わせるかを握っている。彼がファンに何を見せて行くのかによって、パンクラスの今後の浮沈が賭かっているといっても過言ではない。
ただ、新日の道場で汗を流した前田・高田らとは違って、近藤にとって新日本は三代前の「遠い祖国」でしかない。UWFという先代の記憶すら直接には持たない彼の立ち位置は、あたかもブラジルやハワイの移民三世のようなものなのかもしれない。バックtoルーツの実感すらあまり無いだろう彼にとって、そのテーマは自らがその故国の土地を踏み、その第一歩から探しだす以外にないのかもしれない。