■エルガイツルールの生み出した波紋

「総合格闘技に、NHB初期の緊張と迫力を取り戻したい」というテーマが謳われたこの新ルールによって、西東京でひっそりと生息していたキングダム・エルガイツに、初めてといっていいほどのスポットライトが当たろうとしている。当初、金的や頭突きまで許すこのルールの超過激な設定に、採用を突き付けられたDEEPの主催者側も困惑したらしいが、最終的には入江とDEEP系の選手で対戦がほぼ決定、現在最終調整が進んでいるという。

また矢継ぎ早に、ルールを公開した入江は、4月13日の興行で早速このルールの実験マッチを開催すると発表。その趣旨に賛同した旧友の桜井“マッハ”速人は早速マッハジムの所属選手、アンソニー・ハスを派遣(ただし対戦相手の調整がつかず、エルガイツルールでの対戦は次回以降になる)するなど、この大会はキングダムエルガイツの興行としてはこれまでにない注目を集めることになった。

それだけに、団体側の取組姿勢も慎重そのもの。大会前には選手を集めたルールミーティングが入念に行われた他、試合前にはルールの発案者である入江代表が自らマイクを取り、新ルールの説明を行う。有効技、反則に関しても、選手の実演を含めた説明がなされ、次第に観客の間にも新ルールの過激性が浸透していく。

そして、選手入場に先だって、リング外の各コーナーに赤いTシャツを着た4人のオブザーバーが配置される。ノーレフェリーの戦場となったリングを象徴する、異様な光景である。今回はその第一段であることもあって、安全性を厳守するために入江自らが全体を統括するチーフオブザーバーを務める。

新ルールだけでも目新しい光景だが、青コーナーの水埜の経歴も実は極めてユニークなもので、インドネシアの武術・プンチャック・シラット暦8年。日本では随一の使い手という触れ込みの参戦である。水野は黄色の民族衣装を纏ってリングインすると、シラットの型を披露。対する大橋は、選手大量離脱後に頭角を現してきた、キングダムウェルター級のエース格。技術的にはまだまだ荒い物があるとは言え、海のものとも山のものとも付かない、この新ルールに一番乗りで名乗りをあげるあたり、度胸が据わっている。

■エルガイツルール、始動

ゴングが鳴るといきなり水埜がパンチの連打で猛ラッシュをかける。これに対し「落ち着いて対処出来た」という大橋は引き込んでフロントチョークの体勢へ。従来のキングダムルールであれば、フロントチョークが決まらなかった局面で当然ブレイクが命じられたはずだが、今回の新ルールではまさにこのシーンが見せ場。観客もこれまでと違う見せ場を十分理解しいた模様で、ブレイクによって安易に試合が展開しない場面を、息を飲んで見守る結果となった。

大橋のこのフロントネックはがっちりロックされているように見えたが、ポイントがずれていたらしい。水埜はじっくり耐えて反撃のチャンスを探る。片足をリングに入れたオブザーバー入江がいつでも危険状況になったら飛び込める体制で見守るなか、長い膠着状態を脱して、水埜がようやく首を抜く。同時に客席からはほーっという安堵のため息が上がる。やはり通常のMMAマッチトは性質の違う見方が、このルールには存在しているのだ。水埜は上からパンチの連打からバックマウントを奪うが、すかさず大橋が体勢を入れ替え、マウントへ移行しパンチの連打。

たまらず水埜が背中をむけたところでスリーパーに捕らえ、タップを奪った。

「予想された膠着シーンでの中だるみもなく、逆に新しいタイプの緊張感が伝えられたと思う」と入江が語るように、今回の試合ではルールの有効性を証明できる試合展開となったのは事実。しかし、今後、力量の高い選手同士による千日手的な膠着状況や、危険度の高まるLEVEL-2以上の展開で、十分にルールが機能していくかはまだまだ未知数である。また、この日経験の浅いオブザーバーが、自らのチェックポイントに迷うような動作を見せていたのも不安材料の一つである。

この新しい試みが、理論だけの砂上の楼閣に終わらないためにも、団体側には更なるルールの練り込みと、運用の厳正さを望みたい。そして、なにより発案者の入江本人がこのルールによってどういう試合を見せるかによって、このムーブメントが軌道に乗るかどうかが測られることになるだろう。

マッハ道場はもちろん、ルールを統括するJFAという連盟には、まだ他にも意外な加盟団体がいくつか登場しそうだという話もあり、このちっぽけな試みが格闘シーンの起爆剤になる可能性は決して小さくはない。

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