なぜあのような行為に出たのか
一方、頭突きを食らったマテラッツィも、ラフプレーで有名な選手である。今大会でもグループリーグのチェコ戦で一発退場になり、決勝でもフランスにPKを与えていた。本人自身も「ピッチには2人のマルコ・マテラッツィがいる」と認めるほど、時にはあくどい行為も厭わないこともあった選手であった。「きっとマテラッツィはジズーに何か言ったのだろう」。チームメイトのDFテュラムとFWアンリはそう語った。「見たワケじゃないからわからないけど、何か言われなければジズーがあんなことをするとは思えないよ」とDFギャラスも困惑する。
DFサニョルは「あれで流れが変わったり、動揺したりしたわけじゃない」とかばうが、元フランス代表のルブフは「恥ずべき行為だ」と非難するなど、手厳しい声もある。
それでも、国民の61パーセントがジダンの行為を許し、74パーセントの人が、今回のレ・ブルーの健闘を称えている。フランス国民の大多数も、あの一件でジダンのキャリアが台無しになったとも思っていないし、許される行為だとも思っていない。「フランスはあなたを愛している」――エリゼ宮を訪問したジダンにシラク大統領をそう声を掛けたという。チームメイトも同様で、「彼がいなければ、ここまでフランスが来ることはなかった」(サニョル)と一様に感謝の気持ちでいっぱいなのだ。
「何がジダンをそうさせたのか」――ただ、それだけに焦点が集まった。
真相は、いずれ本人の口から語られるか
FIFAはビデオ判定をしないと決定したため、事の真相はいまだに闇の中である。イギリス紙はマテラッツィが、アルジェリア移民のジダンを「テロリスト」と呼んだと報じた。また。ブラジルのテレビが検証したところでは、2度にわたってジダンの母か姉妹を「prostitute(売春婦)」と侮辱したと報じられている。いずれにせよ、W杯の決勝しかもラストゲームのジダンにあのような行為に至らせたのには、彼の尊厳の根幹に関わる“人種差別的”な発言があったのではなかろうか。
ジダンの代理人は「彼はマテラッツィに許し難い重大なことを言われたそうだ。その内容については時機に本人の口から語られるはずだ」とコメント。一方のマテラッツィの父親は「息子は被害者だ」と挑発を否定した。マテラッツィ本人は「テロリスト」発言は否定した後、「それ以上のことは言いたくない。映像に映ったことがすべてだ」と言うにとどまった。
いつか真実が語られることはあるのだろうか。もちろん、それで何かが変わるわけはないが、フランス国民は自分たちの英雄を理解したいのだ。
ジダンは、2度目のW杯優勝はならなかった。だが、大会MVPであるアディダス・ゴールデン・ボール賞を、イタリアのDFカンナヴァーロの1977ポイントをわずか35ポイント抑え、2012ポイントで獲得した。
レ・ブルーの一行は、試合の翌日10日に、パリのクリヨンホテルから、コンコルド広場に集った大勢のサポーター達に手を振っていた……。
(追記)
7月12日、ジダンは記者会見を開き、真相を明らかにした。詳細はコチラです。
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