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〈想像力の文学〉の冒険(2ページ目)

既存のジャンルを越えた野心作を刊行する〈想像力の文学〉――その第2回配本が登場しました。

執筆者:福井 健太

異色のメタファンタジーと
幻想SF作品集

『ネル』
両親の魂を取り戻すため、少年ネルは"物語"の世界へと旅立った。大胆な趣向を活かしたメタフィクション・ファンタジー。
〈想像力の文学〉の第2回配本として、5月には遠藤徹『ネル』と平山瑞穂『全世界のデボラ』の2冊が上梓された。遠藤徹は1961年兵庫県生まれ。東京大学文学部・農学部卒。早稲田大学大学院博士課程満期退学。同志社大学言語文化研究センターの教授を務めつつ、2003年に「姉飼」で第10回日本ホラー小説大賞を受賞。2009年には「麝香猫」が第35回川端康成文学賞の最終候補となった。『ネル』は"虚無女王"に奪われた両親の魂を取り戻すために少年が旅をするファンタジーだが、その冒険行はすこぶるユニークなものだ。物語の中の物語、物語の中の物語の中の物語――という具合に"語り"の次元を越えるネルは、やがて意外な(それでいて爽やかな)終着地に辿り着く。メタフィクションの愛好家には必読モノの快作である。

そして――平山瑞穂は1968年東京生まれ。立教大学社会学部卒。2004年に『ラス・マンチャス通信』で第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。『全世界のデボラ』は雑誌に掲載された6編と書き下ろしを収めた初の短編集である。人間と見なされない"野天人"にまつわるエピソード「野天の人」、政府が情報伝達物質によって国民を管理する社会の一夜を綴った表題作など、ここには歪みに基づく緊張感が張り詰めている。異様なモノを淡々と描くことで読者を不安に陥れる"悪夢"のオンパレードなのだ。

7月には第3回配本として佐藤哲也『下りの舟』が刊行されるが、その後の執筆陣にも円城塔、樺山三英、木下古栗、吉村萬壱などが名を連ねている。いずれも個性的な作風の持ち主だけに、これからの展開が楽しみな叢書なのである。

【関連サイト】
Tetsuya Tanaka's Page…田中哲弥の公式サイトです。
平山瑞穂の白いシミ通信…平山瑞穂のブログ。新作情報などが公開されています。
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