童話をモチーフにしたデビュー作
脳死状態の少女が願ったのは、自分の身体を臓器移植に役立てることだった。寓話テイストが印象的な横溝正史ミステリ大賞受賞作。 |
デビュー作『水の時計』はこんな物語である。莫大な遺産を持つ少女・葉月は、医学的には脳死状態にあるものの、特殊な装置によって言葉を発することが出来る。自分の身体を臓器移植に提供することを望んだ彼女は、暴走族の少年・すばるに"臓器の運び屋"を依頼する。オスカー・ワイルドの童話「幸福の王子」をモチーフにした本書は、4つのエピソードによって構成されている。臓器の移植や売買という生々しい題材を扱いながらも、どこか幻想的なムードを漂わせた作品世界は、著者の才気を存分に感じさせるものだった。そして著者は――そんな期待に応えるように――多彩なストーリーを紡いでいる。暴力団の連続変死事件と"下界"(暗渠)に住む7人のホームレスのドラマを並置した『漆黒の王子』、心に傷を持つ女子高生と最強の騎士"サファイア"が街を守るために闘う『1/2の騎士』などの奇抜なミステリーを手掛けつつ、吹奏楽部の高校生コンビが探偵役を務める『退出ゲーム』ではオーソドックスな(もちろん上質の)本格ミステリーも書けることを実証したのである。
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