ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

上遠野浩平のファンタジック・ミステリー

上遠野浩平がファンタジックな謎解きを描く〈戦地調停士〉シリーズ。その最新作が4年ぶりに刊行されました。

執筆者:福井 健太

異世界ミステリーの可能性

『生ける屍の死』
死者の蘇る街で起きた連続殺人。"死人探偵"が異形の推理を展開する本格ミステリーの名作。
謎解きの興味を軸にした本格ミステリーにとって、その舞台が"現実世界"である必要はない。ルールを構築・説明したうえで"異世界"の事件を扱うことは、極めてユニークな謎解きの創造にも通じている。アイザック・アシモフが『鋼鉄都市』にロボット刑事を登場させ、ランドル・ギャレットが『魔術師が多すぎる』で魔法世界を描いたように――あるいは山口雅也が『生ける屍の死』で死者を蘇生させ、西澤保彦が『七回死んだ男』で時間をループさせたように、SFやファンタジーの設定はミステリーにも適用できる。著者の力量は問われるにせよ、これは多彩な面白さを融合させうる技法に違いないのだ。

上遠野浩平のジャンル横断

『ブギーポップは笑わない』
女子高生たちの間で"死神"と称される"ブギーポップ"――その正体と目的とは? ライトノベル界に革命を起こしたベストセラー。
上遠野浩平は1968年千葉県生まれ(神奈川県育ち)。法政大学第二経済学部を卒業後、ビル整備会社を短期間で退職し、1997年に『ブギーポップは笑わない』で第4回電撃ゲーム小説大賞を受賞してデビュー。青春小説の香気を備えつつ、多くの視点を介して"推移"を立体的に描く手法には定評があり、SF・ファンタジー色の強い〈ブギーポップ〉〈ビートのディシプリン〉〈ナイトウォッチ〉シリーズ、ミステリー寄りの〈しずるさん〉〈ソウルドロップ〉シリーズなどを手掛けている人気作家だ。そして――2000年刊の『殺竜事件』に始まる〈戦地調停士〉シリーズは、双方の面白さを1冊に詰め込むべく、ファンタジー世界の謎解きに挑んだ野心作なのである。

次のページでは〈戦地調停士〉シリーズを御紹介します。
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