日本推理小説界の重鎮・大沢在昌
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新宿署の鮫島警部を主人公にした人気シリーズの第1弾。日本推理作家協会賞と吉川英治文学新人賞をダブル受賞した名作である。 |
多くのベストセラーを生んだ人気作家、日本推理作家協会理事長、京極夏彦と宮部みゆきを擁する"大沢オフィス"主宰――そんな大沢在昌が日本のミステリー界の重鎮であることは言うまでもない。1956年に愛知県名古屋市で生まれた大沢は、内外のハードボイルドを愛読して育ち、1978年に「感傷の街角」で第1回小説推理新人賞を受賞してデビュー。1986年に短編集
『深夜曲馬団』が日本冒険小説大賞(最優秀短編賞)を獲得し、1989年刊の
『氷の森』がマニアの絶賛を浴びるなど、高い評価を受けながらもヒット作が出ない"永久初版作家"の日々を経て、1990年に発表した
『新宿鮫』で爆発的なブレイクを果たした。同作は『このミステリーがすごい!』の第1位にランクインした後、第44回日本推理作家協会賞と第12回吉川英治文学新人賞に選ばれている。1993年に
『新宿鮫 無間人形』で第110回直木賞、2004年に
『パンドラ・アイランド』で第17回柴田錬三郎賞を受賞。高い実力と人気を兼ね備えた、押しも押されもせぬ超一流作家なのである。
個性豊かなシリーズキャラクターたち
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私立探偵の親子が大活躍を見せるアクションコメディの第6作。周到なプロットと軽妙さを兼ね備えた愛すべき物語だ。 |
大沢は重厚なハードボイルドの書き手であると同時に、ゲームやコミックのセンスを活かした軽妙なエンタテインメントの名手でもある。長年にわたって両者を手掛けることで、大沢作品では多くのシリーズキャラクターが描かれてきた。デビュー作に登場した私立探偵・佐久間公、代表作である〈新宿鮫〉シリーズの鮫島警部、トラブルシューターのジョーカーといった正統派ハードボイルドのヒーローもいれば、私立探偵を父に持つ高校生の"アルバイト探偵"こと冴木隆、要人警護会社を経営する"いやいやクリス"、不運なサラリーマン・坂田勇吉のような変わり種もいるという具合に、そのパーソナリティは極めて多岐に渡っている。近未来の東京に暮らすA級調査員のケン・ヨヨギ、脳移植で他人の身体を手に入れた警察官の河野明日香など、SF的な背景を持つ人物も少なくないが、彼らは著者の――エンタテインメント作家としての――柔軟さの産物に違いない。アンリアルな設定にシリアスな物語を繋げることは、著者が最も得意とする手法の1つなのだ。
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『鏡の顔』を御紹介します。