情熱が実を結んだ渾身の1冊
『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』
雑誌連載されたエッセイに翻訳短編を加えた豪華アンソロジー。テキストのみならず編者の誠実さもまた称揚されるべきだろう。 |
もちろん最大のポイントは分量ではなく、情報量と洒脱さを備えた"語り"と収録作のクオリティにほかならない。35年前の原稿を投げ出すのではなく、付記によって情報と反省を加えていく律儀さこそが著者の真骨頂。こういった創作姿勢も含めて、かくも"面白くて勉強になる"本はそうあるものではない。まさに翻訳ミステリーファンには必読の1冊と言えるだろう。
ちなみに――著者は同時期に『私のアメリカン・グラフィティ』を上梓しているが、こちらは英語の慣用句からアメリカ文化を論じたエッセイ集。ミステリーとの直接的な関係は薄いものの、小粋なセンスを味わえる好著としてお勧めである。
【関連サイト】
・生き字引が語るハードボイルド小説の歴史…日経WagaMagaサイト内の「本」ページです。