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伝説のエッセイ"新パパイラスの舟"の出帆(2ページ目)

日本ハードボイルド界の重鎮・小鷹信光による"究極のアンソロジー"が刊行されました。翻訳ミステリーの愛好家には必携モノの1冊です。

執筆者:福井 健太

情熱が実を結んだ渾身の1冊
『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』

『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』
雑誌連載されたエッセイに翻訳短編を加えた豪華アンソロジー。テキストのみならず編者の誠実さもまた称揚されるべきだろう。
2008年10月に刊行された『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』は、小鷹信光の最新エッセイ集にして翻訳ミステリーのアンソロジーでもある。1973年から1975年にかけて『ハヤカワミステリマガジン』に連載された「新パパイラスの舟」は、毎月"架空のアンソロジーを編む"という体裁で書かれたエッセイだった。その原稿を網羅したうえで、現代の視点からの注釈を補い、各回のテーマを代表する短編(ハードボイルドとは限らない)を併録したものが本書というわけだ。かくして「通常の本の二倍の分量になってしまった」本書には「ミステリ・エッセイとミステリ・アンソロジーが一冊ずつ収められている」のである。

もちろん最大のポイントは分量ではなく、情報量と洒脱さを備えた"語り"と収録作のクオリティにほかならない。35年前の原稿を投げ出すのではなく、付記によって情報と反省を加えていく律儀さこそが著者の真骨頂。こういった創作姿勢も含めて、かくも"面白くて勉強になる"本はそうあるものではない。まさに翻訳ミステリーファンには必読の1冊と言えるだろう。

ちなみに――著者は同時期に『私のアメリカン・グラフィティ』を上梓しているが、こちらは英語の慣用句からアメリカ文化を論じたエッセイ集。ミステリーとの直接的な関係は薄いものの、小粋なセンスを味わえる好著としてお勧めである。

【関連サイト】
生き字引が語るハードボイルド小説の歴史…日経WagaMagaサイト内の「本」ページです。
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