スウェーデンの生んだ国民的作家
ヘニング・マンケルとは
スウェーデン南部に住む老夫婦が惨殺された。捜査を担当したクルト・ヴァランダー刑事は、被害者の"二重生活"を突き止めるのだが……。 |
ヘニング・マンケルは1948年ストックホルム生まれ。20歳の時にストックホルムで劇場のアシスタントになり、脚本『子犬から詩人へ』や小説『鉱山爆破人』などを発表した後、1972年にモザンビークの首都マプトへ転居し――モザンビーク初の劇場"テアトロ・アヴェニーダ"を設立して――脚本家、舞台監督、劇場経営者などを兼任した。50歳にして映画監督イングマル・ベルイマンの娘エヴァ・ベルイマンと結婚し、現在はスウェーデンのヨッテボリで暮らしている。警察小説〈ヴァランダー〉シリーズがスウェーデン国内だけで300万部を売り上げたほか、著作は35ヶ国に紹介されており、その総発行部数は2000万部を軽く超えるという。児童文学やノンフィクションの著作も多く、日本にも『少年のはるかな海』『炎の秘密』『炎の謎』などが紹介されている。
著者の代表作〈ヴァランダー〉シリーズは1991年から1999年にかけて9作が発表されており、発表順に『殺人者の顔』『リガの犬たち』『白い雌ライオン』『笑う男』『目くらましの道』の5作が邦訳されている。妻や娘と別居しているベテラン刑事のクルト・ヴァランダーは、家庭の崩壊や父親の介護などの問題を抱え、アルコールに逃避する生活を送っていた。そんなある日、田舎町で静かに暮らしていた老夫婦の惨殺事件を担当することになって――というのが第1作『殺人者の顔』のストーリー。『リガの犬たち』でラトヴィアの独立をめぐる陰謀に巻き込まれたヴァランダーは、続く『白い雌ライオン』においてロシアと南アフリカを股にかけた大事件に関わっていく。さらに『笑う男』では犯罪組織との対決を演じ、猟奇殺人を追っていたはずの『目くらましの道』でも(やはり)国家レベルの事態に携わってしまう。地味な中年刑事が"暗黒"に対峙するのが本シリーズの特徴であり、気が滅入るような話も少なくないが、社会問題を淡々と綴っていく内容は"物語の力"を感じさせる。著者の作品群が世界各国で愛読されているのは、そんな普遍的な魅力を備えているからに違いない。
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