蒼井上鷹のアーリーワークス
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蒼井上鷹の記念すべき初単行本。デビュー作「キリング・タイム」と日本推理作家協会賞(短編部門)候補作「大松鮨の奇妙な客」を含む9編を収録している。 |
1968年千葉県生まれ。会社勤務を経て執筆に専念し、2004年に「キリング・タイム」で第26回小説推理新人賞を受賞。翌年には「大松鮨の奇妙な客」が第58回日本推理作家協会賞(短編部門)の候補に選ばれた――蒼井上鷹はそんな作家である。2005年に上梓された初単行本
『九杯目には早すぎる』には5本の短編と4本のショートショートが収められており、多彩なアイデアを1冊に詰め込んだ構成は多くの読者――とりわけ短編好きに高く評価された。かくして著者は"現代の異色短編作家"として注目を集めたのである。
蒼井作品には閉鎖空間と酒がよく登場するが、初長編
『出られない五人』にはその両方が使われている。急逝した小説家を偲ぶため、故人の通っていたバーの跡地に5人の男女が集まった。ところが――宴会中に身元不明の死体が発見される。しかも彼らには外へ出たくない理由があった。こう書くとクローズドサークルの犯人探しに見えるが、中味は特殊な状況下でのドタバタ劇。人物像の弱さと暴走度の低さは否めず、必ずしも成功作とは言えないものの、随所に持ち味を感じさせる1冊であることは間違いない。
留置所内の推理合戦
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留置所の同僚になった囚人たちが推理合戦を繰り広げる短編集。最終話のトリッキーな真相も一見の価値ありだ。 |
第2作品集
『二枚舌は極楽へ行く』には12編が収録されている。本書の最大の特徴としては、作中の出来事が他の作品に関与していること――全編が緩やかに繋がっていることが挙げられるだろう。バラバラの短編を並べるのではなく、関連性を持たせることで"犯罪絵巻"が構築されているわけだ。この手法は第3作品集
『ハンプティ・ダンプティは塀の中』においてさらに進化している。第一留置所の囚人となった「ワイ」と4人の先客たちが"日常の謎"を推理し、仲間の一人である"マサカさん"が真相を突き止める――という安楽椅子探偵モノだが、最終話にはちょっとした仕掛けが施されている。この構成によって本書は鮮やかな幕切れを獲得しているのだ。
次のページでは
『俺が俺に殺されて』と
『ホームズのいない町』を御紹介します。